12-1
次の登校日、私はクロード様とちゃんと話をしようと意気込んでいた。
クロード様は今日も玄関ホールで待っているだろうか。いつも私が行くよりも随分早く待っているみたいだから、早めに行けば話し合う時間が取れるかもしれない。
私は張り切っていつもより早く屋敷を後にした。
学園に着くと、予想通り今日もクロード様が待っていた。
クロード様は柱にもたれかかり、どこかぼんやりとした目で窓の外を見つめている。私は、まだこちらに気づいていない様子のクロード様の元へ駆けて行く。
「クロード様!」
「えっ? ああ、エミリア。今日は随分早いんだな」
クロード様は私に気が付くと、驚いたように目を見開く。
「クロード様こそ。いつもこんなに早くから待ってらしたんですか?」
「ああ、エミリアがいつ来るかわからないからな」
クロード様はそうきっぱり言う。けれど、声にどこか元気がないように思えるのは気のせいだろうか。
「レスターとファロンの街に出かけたんだろ? 楽しかったか?」
「え? あ、はい。楽しかったですが……」
妙にあっさりした態度で聞かれ、戸惑ってしまう。この前レスター様と出かけると言ったときはあんなに文句を言ってきたのに。
「それはよかったな。レスターはいい奴そうだもんな……」
「……え? クロード様、突然どうなさったんですか?」
つい先日までレスター様に敵意むき出しだったクロード様が突然そんなことを言うので戸惑ってしまう。
クロード様は少し寂しそうな笑みをこちらに向けて言った。
「いや、お前の交友関係に口出しして悪かったと思って。こんな風に待ち伏せしたりするのも迷惑だったよな」
「それは……」
「こういうことはもうやめにするよ。今朝はそれを言いたくて待ってたんだけど、これで最後にするから。今まで悪かった」
まるで別れの挨拶をするみたいに悲しげな目で告げるクロード様に、なんと言ったらいいかわからなくなる。
違う。私はクロード様と改めて話をする気で来たのだ。
もう逃げたりしないから、ちゃんとミアのことを聞かせて欲しいと。
正直に口に出せばいいというのに、私の口からは何も言葉が出てこない。クロード様が珍しく神妙な声で話したりするからだ。
「エミリア、婚約解消のことなんだけど」
突然出てきた言葉に、肩がびくりと跳ねる。まさか了承するつもりなのだろうかと、おそるおそる彼の目を見た。




