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「レスター様、ありがとうございます。そんな風に言ってもらえて嬉しいです」
「エミリアさん……」
「でも……ごめんなさい」
絞り出すように言って頭を下げる。
本当はレスター様の態度から何も感じないわけではなかった。なのに、私は気づかないふりをした。
レスター様といれば、クロード様を忘れられるかもしれないと思ったから。
けれど、結果はどうだろう。
婚約解消したいなんて口ではいいつつ、内心では未練がましくクロード様のことを考えてばかり。本当は、私はクロード様と離れたくなどないのだ。
ただ、クロード様が見てくれないのが悲しくて。一時的にこちらを見てくれたって、また時が経てば私から遠ざかるんじゃないかと不安で。
私はクロード様のことを試したかったのかもしれない。
……そんな子供じみたことにレスター様を巻き込むなんて。
「レスター様、ごめんなさい……。私、やっぱりクロード様と離れたくないんです。レスター様といればもしかしたらクロード様を忘れられるんじゃないかと思いました。けれど、駄目でした。クロード様のことばかり考えてしまうんです」
「エミリアさん」
「利用するようなことをして、ごめんなさい……」
私はただ頭を下げ続ける。顔を上げてレスター様を見る勇気が出ない。
「エミリアさん、顔を上げて」
上から柔らかい声が降ってくる。おそるおそる顔を上げると、レスター様は少し困ったような笑みを浮かべこちらを見ていた。
「レスター様……」
「謝らなくていいよ。エミリアさんがクロード様のことをまだ好きなのは気づいてた。つけこもうとしたのは僕のほうだから」
「そんなこと……」
「もしかしたら僕といたらクロード様のことを忘れられるかもと思って来てくれたんでしょう? 結局だめだったみたいだけど。でも、嬉しいよ」
レスター様はふわりと目を細めて言う。
「これからも友達でいてくれたら嬉しいな」
レスター様はそう言って笑う。変わらず優しいレスター様に、涙が溢れそうになる。私は何度もこくこくうなずいた。
その後は、少し気まずさを抱えながらも、二人で元来た道を歩いた。
私は歩きながら、クロード様のことを考えていた。
このままクロード様を避けているままでいいのだろうか。このまま関わりたくないと逃げているままで。
(……クロード様、何か言いたそうにしていたわよね……。私は聞こうとしなかったけれど……)
クロード様の私を見る悲しげな目が頭に浮かぶ。
思えばミアの言葉に動揺した私は、クロード様の言葉をろくに聞こうともしなかった。
王都に戻ったら、今度ちゃんと話を聞いてみようと心に決めた。
もう、逃げるのはやめにするのだ。




