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森を歩き続けると、木々の奥が何かキラキラ光っている様子が見えた。気になって近づくと、光は一斉にこちらへやって来る。
「わぁ、すごい! もしかしてこの舞っている光、妖精でしょうか!?」
「きっとそうだよ! すごい、本当に妖精がいるんだね!」
そっと手を持ち上げると、光が人差し指の上にとまる。光はまるで生き物のように私の指の周りをくるくる回った。
姿は見えないのに、その様子がなんだかとても可愛らしい。
「なんだかエミリアさんに懐いてるみたいだね」
「ふふ、とても可愛いですね」
光はしばらく私の指の周りをぐるぐる回ると、ふわりと飛んで行ってしまった。その後も別の光が次々とこちらへ飛んでくる。
しばらくの間レスター様と、キラキラと舞う妖精らしき光に見惚れていた。
「すごいですね、妖精に会えるなんて! 来てよかったです」
「本当だね!」
私が感動しながら言うと、レスター様も笑顔でうなずく。
それから指に止まっていた光を眺めていたレスター様は、ふいに真剣な顔になってこちらを見た。
「……あのさ、エミリアさん」
「なんでしょう?」
「前にも聞いたけどエミリアさんは……クロード様と婚約解消したいと思ってるの?」
レスター様はじっと私の目を見つめながら尋ねてくる。
私は思わず言葉に詰まり、地面を見つめた。
婚約解消……。迷うまでもなく、そうだと答えればいいはずだ。クロード様には婚約解消して欲しいと何度も言ってきたのだから。
なのに、なかなか言葉が出てこない。
答えようとすると、胸がずきりと痛むのだ。
「ええと……」
自分で自分の感情がわからない。
クロード様のことなんて忘れたいと何度も思った。幼い頃に結ばれた婚約なんて解消して、離れてしまえたらきっと楽になれるだろうと。
なのに、この痛みはなんだろう。
「エミリアさん。もしもクロード様と婚約解消するつもりなら……僕を新しい婚約者にしてくれないかな」
「え……っ?」
驚いて顔を上げると、レスター様は痛いほど真剣な目で私を見ている。
「な、何をおっしゃっているのですか」
「初めて会ったときからずっと気になって仕方なかったんだ。僕はクロード様みたいにかっこよくもないし、お金持ちでもないけれど。でも、エミリアさんに絶対悲しい顔はさせないから」
レスター様の言葉に驚いて、なかなか言葉を返せない。
レスター様は確かに最初から好意的だったし、いつも親しげに話しかけてくれたけれど、友人として接してくれているとばかり思っていた。
だって、レスター様と仲の良い女の子はたくさんいるし、その中には私よりもずっと綺麗な子が大勢いるもの。
そんなこと思ってもみなかった……そう考えたところで、自分のずるさに気づく。
時折レスター様から向けられる真剣な目や声。本当に私は何も気づいていなかったのだろうか。




