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過去のことを反省はしたものの、エミリアとレスターが二人で出かけるのを黙って待っていられるのかと言われたら話は別だ。
俺はできるだけ目立たない服装をして頭には帽子を被り、早朝からファロンの街へ向かっした。
ファロンの街へ来たら大抵の人間が最初にやってくる中心部の方へ行き、建物の影に隠れて二人を待つ。しばらくすると、人混みに混じってエミリアとレスターが歩いてくるのが見えた。
二人は全くこちらに気付くことなく近づいてくる。
(ふん、デートというより女友達と遊びに来てるみたいだな)
二人の背丈は同じくらいで、レスターが中性的な顔をしていることもあり、ぱっと見だと同性の友達同士にしか見えなかった。周りの女性客の集団とも違和感なく馴染んでいる。
こんな風だったらエミリアもレスターのことを意識したりはしないんじゃないかと思うと、少しだけ心が軽くなる。
そうだ、よく考えればレスターは所詮それほど有名でも裕福でない伯爵家の令息なのだ。エミリアの望むものを好きなだけ買ってやったりすることはできないだろう。
どうせ今日も、以前学園で見かけた古めかしくて小さい馬車にエミリアを乗せてきたはずだ。
いや、もしかするとエミリアの家に馬車を出してもらったかもしれない。
俺ならいい馬車を用意してエミリアを快適に過ごさせてやるし、エミリアが欲しがるなら好きな物をいくらでも買ってやれる。
エミリアが男と出かけると言うので心配になったが、警戒し過ぎることはないのではないか。そう考えると少しだけ気分が良くなった。
少し軽くなった心で、改めて二人を眺める。
(それにしてもエミリア可愛いな……。なんだあの恰好……)
今日のエミリアはウェーブがかった薄茶の髪をポニーテールにして、珍しくズボンを履いていた。
黒ベストに黒ズボンの乗馬服のような恰好。確か、王都にある有名店が売り出してから流行っているスタイルだったか。
普段は令嬢らしい恰好をしているエミリアが着ると新鮮で、思わず目を奪われてしまう。
「ていうかエミリアさん、その恰好本当に似合うよね! エミリアさんって女の子らしい服が好きそうだと思ってたから意外だなぁ」
エミリアの恰好に見惚れていると、レスターの明るい声が聞こえてきた。
「普段は着ないんですけど、王都のカペラというお店で見かけたときにすごく素敵だなと思って……。ズボンは滅多に履かないので落ち着かないんですけどね」
「ああ、あのお店! いいね、そういうの。普段は挑戦しないことに挑戦してみる人って好きだな。前向きな感じで」
「挑戦だなんて。ただ気に入った服を着ただけですよ」
「服でも何でも新しいことに挑戦する人は素敵だよ」
レスターの言葉にエミリアは照れたように笑う。その顔は本当に嬉しそうだった。




