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私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが  作者: 水谷繭
10.認めたくない クロード視点

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10-2

***


 素っ気ないエミリアに頼み込んで、一緒にフェアリーガーデンに行ったところまではよかった。


 あの日は俺の気のせいではなく、エミリアも楽しそうにしていたと思う。



 しかしその翌日、そんな和やかな空気はあっさり崩れ去る。


 タイミング悪く、ミアが以前貸した俺のジャケットをよりにもよってエミリアに返してきたのだ。


 紙袋を持って来たときのエミリアのあの冷たい目。


 なぜ俺はミアの頼みなんか聞いてレアンの街になど行ったのかと、本気で頭を抱えるはめになった。


 慌てて事情を説明したが、エミリアは疑わしそうな視線を向けるばかりでちっとも信用してくれない。



 ジャケットは本当に薄着のミアが雨に濡れて寒そうだったので貸しただけだ。


 今度の登校日にでも返してくれればいいと渡したら、翌日もその翌日も、数週間が経っても「ごめんなさい、忘れてしまいましたわ」と言うばかりで返してくれないので、それならあげるから返さなくていいと言っておいた。


 こんなことならもっとしつこく返してくれと言っておくんだった……。


 いや、ダンスパーティーでミアが脅しめいた言葉を口にした時点で、もっと警戒しておくべきだったのだ。



 しかし、今さらそんなことを考えても、エミリアを怒らせてしまった今では後の祭りだ。


 何とか挽回しようと、いつも通り放課後に玄関前でエミリアを待っていると、やって来たエミリアはいつも以上に冷たい視線をこちらに向けてきた。


 断られるだろうとは思いつつどこへでも連れて行ってやるから今度の休日にどこかへ出かけようと誘うと、エミリアはレスターと出かけることになったから無理だという。


 予想外の言葉に青ざめる。


 レスターと? 休日に二人で?


 レスターがエミリアに好意があるのなんて、よく見るまでもなくすぐに気づいた。その上あいつは外見は全く強そうではないのに、俺が牽制してもちっとも気に留めないほどふてぶてしいのだ。


 エミリアの方は、俺の希望的観測でなければレスターに友人以上の関心を抱いていないように見える。


 けれど、もしも二人で出かけて、その時に甘い言葉でもかけられたら、わからないではないか。


 いまわしいことにレスターは、女生徒たちの間で可愛いだとか紳士的で王子様みたいだとか言われて随分人気があるらしいのだ。


 エミリアだってどう思うかわからない。


 何としてでも止めたかったが、ミアのことを出されては何も反論できなかった。


 エミリアは俺に背を向けて遠ざかっていく。



 玄関前に残された俺は、ただ悶々と考え込むことしかできなかった。


 同時に、俺が見せつけるようにミアと親しくしていたとき、エミリアはこんな気持ちだったのかもしれないと思い至る。


 嫉妬する顔が見たいからってあんなことするのではなかった。


 エミリアに関心を向けて欲しいなら、ほかに方法なんていくらでもあったのに。


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