10-1
「エミリア……なんで俺といるときより楽しそうなんだよ……!!」
よく晴れた休日の日、俺は何とも複雑な思いで建物の物陰に隠れながら、楽しげに歩くエミリアとレスターを眺めていた。
さっきからすれ違う人々がじろじろと不審そうな目を向けて来るが、気にしてなどいられない。
エミリアはレスターの方に顔を向け、何度も楽しそうな笑みを浮かべる。悔しいことに俺とフェアリーガーデンに出かけたときよりもずっと表情が明るかった。
気が気でない思いで二人を見つめていると、ふいにエミリアがバランスを崩す。
「あっ、危ない……っ」
こんなに離れた場所にいては聞こえるはずがないのに、無意識に声が出る。隠れているのも忘れ、思わず駆け寄りかけた。
しかし、心配は無用だとすぐにわかった。隣を歩いていたレスターがすぐさまエミリアを支えたからだ。
エミリアは転びかけたのが恥ずかしかったのか、照れたようにレスターに何か言っている。レスターはそれを見て笑顔で首を振った。
その光景自体は気に入らないが、とりあえずエミリアがけがをしなかったことに安心していると、あろうことかレスターはエミリアに手を差し伸べる。
しかもエミリアは少し迷った様子をしたものの、笑顔でレスターの手を取ったのだ。
「な……! お前ら何してるんだよ!! 何手なんか繋いでるんだ!?」
イラついて思わず声が出る。
こちらをちらちら見る人々の視線がさらに険しくなったが、そんなことはどうでもいい。
もう隠れてなどいないでこのまま二人のところへ行ってしまおうかと考え、いや、そんなことをしてはエミリアからさらに軽蔑される恐れがあると必死で衝動を押しとどめる。
すると、突然エミリアの視線がこちらに向いた。
慌てて建物の陰に隠れ直す。まさか気づかれたのだろうか。
そっと顔を出してエミリアの方を見ると、何事もなかったかのようにレスターとの会話に戻っていた。
安心すると同時に、一体俺は何をやっているんだと頭を抱えた。
こんなストーカーみたいな真似までして……というかやっていることはストーカーそのものなのではないかと考えたところで、頭が痛くなってきたので考えるのをやめた。
けれど、どうしても気になって仕方なかったのだ。
エミリアがほかの男と二人で出かけるなんて、黙って待っていられるはずがない。




