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「一体どういうことだ!?」
婚約解消を決意し、両親に話した翌日。学園に着くなりクロード様が怖い顔で駆け寄ってきた。
まだ早い時間なので人が少ないとはいえ、玄関ホールには何人もの生徒がおり、みんな戸惑い顔で私たちを見ている。
「クロード様、みんな見ていらっしゃいますよ」
「うるさい! どういうことだと聞いている!! 婚約解消したいとは何のつもりだ!?」
クロード様は顔を歪ませて怒鳴る。婚約解消という言葉に、周囲の生徒がざわつくのがわかった。
それにしても、クロード様がまさかこんなに怒るなんて。
私としては、むしろ感謝されるのではないかと思ったのだ。だって、クロード様にとってわずらわしいものでしかないはずの婚約を、私の方から解消してあげると言っているのだから。
少しだけ、クロード様にもわずかながらに長年の情があり、私との婚約が解かれることを寂しく思ってくれたんじゃないかなんて期待がかすめる。
しかし、彼はあっさりそんな私の期待を打ち消した。
「全く……婚約解消だなんて、外聞を考えろよ。俺が周りからどう思われてもいいのか?」
クロード様から出てきたのはあまりに自分本位な言葉で、私の心は瞬く間に冷えていく。
「外聞というなら、クロード様こそこんな人前で大声でプライベートな問題を話さない方がいいのではありませんか? みっともないですわよ」
「な……っ!」
冷めた思いでそう口にすると、クロード様は目を見開いた。そして口をぱくぱくしながら顔を赤くする。怒りで声も出ない様子だ。
彼が驚くのも無理はない。私がこれまで彼の言うことに反論したことなど、一度もないのだから。
「お前、いつからそんなに生意気な口をきくようになった」
「思ったままに申し上げたまでです」
「ちょっと来い。詳しく説明しろ」
クロード様は返事も聞かず、私の腕を引っ張っていく。周りの生徒たちはやはり戸惑い顔でこちらを見ていた。
クロード様は私に対してはともかく、他の人には常に礼儀正しく接していた。生徒たちの中には、驚愕の表情でクロード様を見る者も少なくなかった。
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「それで、エミリア。聞かせてもらおうか」
人気のない校舎の裏まで来ると、クロード様は険しい顔で言った。
どうしてこんな目で見られなければならないのかわからないまま、私は言葉を返す。
「クロード様と私の今後のためには、このまま婚約を続けるのはよくないと思ったんです。だってクロード様、私のことお嫌いでしょう?」
今までずっと思っていた言葉を、口に出してしまった。
クロード様の顔を見ると、驚きの表情を浮かべてこちらを見ている。




