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二時間ほど馬車に揺られた後、ファロンの街へ到着した。
「すごい人だね……。さすがファロンの街」
「本当に。やっぱり人気なんですね」
休日のためか、ファロンの街はすでにたくさんの人で賑わっていた。
家族連れにカップル、友人同士で来ている人たちなど客層は幅広いけれど、やはり妖精の街と言われる場所だけあって女性客が多い。
お店も可愛らしい外観のところが多かった。王都とは全く違う雰囲気に、辺りをきょろきょろ見回してしまう。
レスター様はそんな私を見て笑った。
「まずはどこへ行こうか! 映画にちらっと映ってた塔に行ってみる?」
「いいですね。そこ、ぜひ行きたいと思ってたんです!」
レスター様と二人、ファロンの街の中心部を歩き回る。
小さな宮殿を見学したり、妖精の塔と言われる場所に入ったり。そこかしこに妖精をモチーフにした飾り付けがしてあって、見ているだけで楽しかった。
『妖精と花の迷路』の映画に関連した展示コーナーなんかもあったりして、ちょっと感動してしまった。
「レスター様、ここすごいですね! 妖精関連のものがたくさん! ここにいたら本物の妖精に会えそうな気がします」
「あはは、エミリアさん楽しそう。本当に妖精に会えたりするかもね」
私の言葉にレスター様はくすくす笑う。
そのとき、街の様子に気を取られ過ぎたのか、つい足をもつれさせてしまった。
バランスを崩して体が前のめりになる。
「エミリアさん!」
転びかけた私を、レスター様はさっと手を伸ばして支えてくれた。
「す、すみません、レスター様……」
「大丈夫だよ。足ひねってない?」
「はい、レスター様が支えてくれたので大丈夫です」
レスター様は安心したように笑って手を離す。レスター様の腕は意外なほど力強かった。
今までまるで女の子の友達みたいに思っていたのに、やっぱり男の子なんだなぁと妙に感心してしまう。
「エミリアさん、あの、嫌じゃなければまた転ばないように……」
レスター様はそう言って遠慮がちに手を差し伸べる。
差し伸べられた手を見て、一瞬迷った。手を取ってしまってもいいのだろうか。
クロード様が見たら嫌がるんじゃないかしら……なんて考えたところで、まだ彼のことを気にしている自分に呆れてしまう。
第一、クロード様はここにいるはずないのだから、見られるわけがないのに。
「ありがとうございます、レスター様」
私はにっこり笑ってレスター様の手を取った。手が触れた瞬間、彼の瞳が小さく揺れる。
「じゃ、じゃあ次の場所に行こうか! どこにする?」
レスター様はちょっぴりぎくしゃくした様子で言う。私はなんだかおかしくなって笑いながらそんな彼を見た。




