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私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが  作者: 水谷繭
9.妖精の街

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9-2

***


 二時間ほど馬車に揺られた後、ファロンの街へ到着した。


「すごい人だね……。さすがファロンの街」


「本当に。やっぱり人気なんですね」


 休日のためか、ファロンの街はすでにたくさんの人で賑わっていた。


 家族連れにカップル、友人同士で来ている人たちなど客層は幅広いけれど、やはり妖精の街と言われる場所だけあって女性客が多い。


 お店も可愛らしい外観のところが多かった。王都とは全く違う雰囲気に、辺りをきょろきょろ見回してしまう。


 レスター様はそんな私を見て笑った。



「まずはどこへ行こうか! 映画にちらっと映ってた塔に行ってみる?」


「いいですね。そこ、ぜひ行きたいと思ってたんです!」


 レスター様と二人、ファロンの街の中心部を歩き回る。


 小さな宮殿を見学したり、妖精の塔と言われる場所に入ったり。そこかしこに妖精をモチーフにした飾り付けがしてあって、見ているだけで楽しかった。


 『妖精と花の迷路』の映画に関連した展示コーナーなんかもあったりして、ちょっと感動してしまった。



「レスター様、ここすごいですね! 妖精関連のものがたくさん! ここにいたら本物の妖精に会えそうな気がします」


「あはは、エミリアさん楽しそう。本当に妖精に会えたりするかもね」


 私の言葉にレスター様はくすくす笑う。


 そのとき、街の様子に気を取られ過ぎたのか、つい足をもつれさせてしまった。


 バランスを崩して体が前のめりになる。


「エミリアさん!」


 転びかけた私を、レスター様はさっと手を伸ばして支えてくれた。


「す、すみません、レスター様……」


「大丈夫だよ。足ひねってない?」


「はい、レスター様が支えてくれたので大丈夫です」


 レスター様は安心したように笑って手を離す。レスター様の腕は意外なほど力強かった。


 今までまるで女の子の友達みたいに思っていたのに、やっぱり男の子なんだなぁと妙に感心してしまう。



「エミリアさん、あの、嫌じゃなければまた転ばないように……」


 レスター様はそう言って遠慮がちに手を差し伸べる。


 差し伸べられた手を見て、一瞬迷った。手を取ってしまってもいいのだろうか。


 クロード様が見たら嫌がるんじゃないかしら……なんて考えたところで、まだ彼のことを気にしている自分に呆れてしまう。


 第一、クロード様はここにいるはずないのだから、見られるわけがないのに。



「ありがとうございます、レスター様」


 私はにっこり笑ってレスター様の手を取った。手が触れた瞬間、彼の瞳が小さく揺れる。


「じゃ、じゃあ次の場所に行こうか! どこにする?」


 レスター様はちょっぴりぎくしゃくした様子で言う。私はなんだかおかしくなって笑いながらそんな彼を見た。

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