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私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが  作者: 水谷繭
9.妖精の街

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9-1

 クロード様との接触を避けながら過ごすうち、レスター様とファロンの街へ行く日がやって来た。


 お屋敷の自室で迎えに来てくれると言うレスター様を待っていると、執事が扉を叩く。


「エミリアお嬢様、アディソン家のご子息様がおいでです」


「ありがとう、すぐ行くわ」


 私は荷物を手に取り、鏡の前でさっと髪を整えてから部屋を出た。



「おはよう、エミリアさん。わぁ、ポニーテールにしてるの初めて見た!」


「おはようございます、レスター様。変ではないですかね……」


 ファロンの街は自然が多いので、今日は髪は一つにまとめ、黒いベストに黒ズボンのパンツスタイルにしてきた。最近、活動的な貴族女性たちの間で流行っている、乗馬服のようなスタイルだ。


 あまり普段はしない服装なので、少し落ち着かない。けれどレスター様は何度も褒めてくれた。


「すごく似合ってるよ! 髪も服も可愛い! 制服じゃないエミリアさんって新鮮だな」


「ありがとうございます……。レスター様も素敵ですわ。私服はそんな感じなんですね」


 レスター様は白いシャツに、ストライプの入った黒のジャケット、グレーのズボンという恰好をしている。


 いつも降ろしている少し長めの金色の髪は、今日は細い黒のリボンで一つにくくっていた。


 制服を着ているときは可愛らしく見えるのに、今日のレスター様は少し大人っぽく見える。


 レスター様の言う通り制服じゃないと印象が変わるなぁと思いながら褒めると、彼は照れたようにお礼を言った。



「じゃあ、早速行こうか。ファロンの街!」


「ええ、行きましょう」


 私たちは早速お屋敷を出て、レスター様が用意してくれた馬車に乗り込んだ。


 ファロンの街は、メルフィア王国の王都から馬車で二時間ほどの場所にある。


 古くからある建物がたくさん立ち並び、街全体が観光地のようになっているところだ。中心部から少し離れた場所には、妖精が住むと言われる森がある。



「楽しみだね! 最初は街の中心部と森、どっちの方に行く?」


「まずは中心部の方から見て、その後で森へ行きたいです!」


「いいね、じゃあ小宮殿とか妖精の塔とか色々行ってみよう」


 馬車の中でファロンの街の地図を広げて行き先を話し合う。行く前からとてもわくわくしていた。


 一緒に出掛ける相手がクロード様ではなくても、私はちゃんと楽しいと思えるのだ。そう思うと、心が晴れるような気がする。


 私はクロード様がいなくたって、平気なのだ。


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