8-2
「やっぱりクロード様とは関わりたくありませんので、玄関ホールで待ち伏せするのはやめていただけますか」
「え? エ、エミリア……!?」
クロード様は慌てた様子で私に手を伸ばしてきたけれど、振り切ってそのまま玄関ホールを走り抜ける。
きっとミアはこうなることを期待して、わざわざ私にクロード様の服を渡して来たのだろう。まんまと踊らされて馬鹿みたいだ。
わかっているのに、動揺する心を抑えきれなかった。
***
「エミリアさん、大丈夫? 随分元気がないね」
「え、わかりますか……?」
三限目の精霊学の時間、授業開始前に席で悶々と考え込んでいると、隣の席のレスター様が心配そうに声をかけてきた。
「うん、顔色が良くないよ。体調でも悪いの?」
「いえ、ちょっと考え事をしていて。体調が悪いわけではないので大丈夫です」
「そう? あまり思いつめ過ぎないでね」
レスター様は労わるようにそう言ってくれる。私は感謝してうなずいた。
「あれ、そのポストカード、もしかしてフェアリーガーデンで買ったの?」
レスター様は私のノートに目を向けて言う。私もそちらに視線を向けると、ノートの間に挟んだポストカードがはみ出ていた。
私は苦々しい思いでそれを見つめる。『妖精と花の迷路』のイラストの描かれたポストカードは、昨日劇場の前でクロード様が買ってくれたものだ。
お屋敷に帰ってからもそのポストカードが気になってじっと眺めてしまい、最後にはノートの間に挟んでおいた。今、昨夜の自分の行動を思い出すと何とも複雑な気分になる。
「はい……。映画を観て、その帰りに」
「へぇ! 僕もその映画観たよ! すごく綺麗だったよね」
私が何とか笑みを作って言うと、レスター様は明るい声で言った。
「レスター様もご覧になったのですか?」
「うん、二番目の姉様に引っ張って行かれてさ。でも途中から僕の方が夢中になって観ちゃった。あれ、多分撮影したのファロンの街だよね」
「そうなんですか? 気づきませんでした」
「あの感じは多分そうだよ。画面の端に映っている建物がそれっぽかったもん」
レスター様は楽しげにそう言う。
ファロンの街は、メルフィア王国の古都として有名な街だ。小さな街だけれど、小さな宮殿や塔など歴史ある建物が多く、自然も豊かなので観光地として人気が高い。
何より妖精がたくさん住むと言われているので、日々妖精の加護を願う人がたくさん訪れている。
確かにあの街ならば映画の撮影場所にぴったりだ。
私がファロンの街に思いを馳せていると、レスター様が明るい口調で言った。
「……あのさ、よかったら今度行ってみない?」
「え?」
「ほら、妖精の加護で溢れている街に行ったら元気が出るんじゃないかと思ってさ!」
レスター様はそう言って笑う。元気がなかった私を気遣ってくれているらしい。




