8-1
「クロード様、おはようごさいます」
「!! おはよう、エミリア!」
玄関ホールに着くと、今日もクロード様が待ち構えていた。
ミアはクロード様が見つからなかったからなんて言っていたけれど、簡単に見つかる場所にいたので疑問に思う。
けれど今はそれよりも気になることがあった。
「エミリアから声をかけてくれるなんて久々だな。どうし──……」
「これ、ミアさんから預かりました」
押し付けるように紙袋を渡すとクロード様は目をぱちくりする。不思議そうに中を覗き込んだ彼の顔が、途端に強張った。
「どうしてエミリアが……」
「クロード様が見つからなかったから私に預けたみたいです。こんなに目立つ場所にいたのに不思議ですね」
「そ、そうか……。俺に直接渡せばいいのに……」
クロード様は紙袋を抱え、ちらちらとうかがうようにこちらを見ている。ミアから何か聞いてないか気にしているのだろうか。
「クロード様、ミアさんとレアンの街の宿に泊まったと言うのは本当ですか?」
「え……っ」
クロード様の顔がみるみるうちに青ざめていく。その表情を見て、ミアの嘘ではなかったとわかってしまった。
「違うんだ、エミリア! 確かに泊りはしたが、馬車が壊れて帰れなかっただけなんだ! ミアとは何もないからな!」
「へぇ……。そんなにタイミングよく馬車が壊れたんですね。侯爵家のあのよく整備された馬車が」
「ち、違う! あの日はミアが馬車を用意したんだ! 帰り道に突然車輪が壊れて、天候も悪かったからどうしようもなくて……」
クロード様は焦った様子で言葉を並べている。彼の言葉を聞いても言い訳にしか聞こえず、心は冷えていくばかりだ。
「ジャケットを貸して差し上げるなんてお優しいのですね」
クロード様の抱える紙袋を冷めた目で見つめながら言うと、彼はしどろもどろになる。
「天候が悪かったって言っただろ? 薄着のミアが風邪を引きそうだったから貸しただけだ。こちらに帰って来てからも家に忘れてしまったと言ってなかなか返してこないから、あげるから返さなくていいと言ったんだが……。その、悪かった……」
「なぜ謝るのですか? 女性が風邪を引かないように気遣ってあげるなんて、いいことではないですか」
私がにっこり笑って言うと、クロード様はこちらの感情をうかがうように不安げな目を向ける。
「エミリア、俺を疑ってるのか……?」
「いいえ。クロード様が何もないとおっしゃるのならそうなのでしょう」
「エミリア……!」
「けれど」
ほっとした顔になるクロード様に、私は冷たい目を向ける。




