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あっという間に週末になり、フェアリーガーデンに行く日がやって来た。
クロード様はやたら張り切った様子でうちのお屋敷までやって来て、玄関まで出てきた私に手を差し伸べる。
「行こう、エミリア。今日はエミリアの行きたいところをたくさん回ろうな」
「劇場だけで構いませんけど」
「そうか、映画に集中するのもいいな! その服似合ってるよ。フェアリーガーデンにぴったりだ」
クロード様は私が冷たく返すのをものともせずに、明るい表情のまま言う。
今日着ているのは、フリル付きのブラウスに、裾のところに花の刺繍の入ったダークブラウンのスカートだ。ブラウスの胸元には黒いリボンがついており、その真ん中には妖精の絵が刻まれた金色のブローチがついている。
なんだか張り切って支度をしてきたみたいで恥ずかしくなった。実際、昨日はそわそわと寝付けなくて、無意味に長い間服選びをしていたのだけれど。
「……動きやすい恰好の服を探したらこうなっただけです」
「今日のお祭りのために動きやすい恰好をしてきてくれたんだな! 嬉しいよ」
今日のクロード様は何を言っても全然効かないので困る。
クロード様は笑顔のまま私の手を引いて馬車に上がらせた。馬車の中でもクロード様はずっと嬉しげな様子でこちらを見ていた。
街に到着すると、早速花に溢れた光景が飛び込んで来た。
道路にはたくさんの植木鉢が並べられ、どのお店も花の飾りでめいっぱい飾り付けられている。
空に浮かぶ風船に、花を詰んだワゴン。通り過ぎる花飾りを付けた楽しそうな人々。明るい光景に思わず見惚れてしまった。
「……綺麗ですね」
無意識のうちにぽつりと呟くと、クロード様がぱっとこちらを向いた。
「ああ、本当だな! すごく綺麗だ」
クロード様は私が肯定的な感想を漏らしたのがよほど嬉しかったのか、あの店の飾りつけは綺麗だとか、そこの花壇の花は珍しいとか、熱を込めて同意してくる。
今まで素っ気ない態度か、そうでなかったらトゲのある言葉しか返してくれなかったクロード様が、こんな風に私の機嫌を取ろうとするかのように振る舞うのは、やっぱり落ち着かない。
落ち着かない気持ちのまま、二人でクロード様が予約してくれたという劇場に向かった。
劇場はそれほど大きくなく、中は数十人の人が入れば埋まってしまう広さだった。部屋の前方には四角い大きなスクリーンが映し出されている。




