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私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが  作者: 水谷繭
7.花と妖精のお祭り

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7-3

***


 あっという間に週末になり、フェアリーガーデンに行く日がやって来た。


 クロード様はやたら張り切った様子でうちのお屋敷までやって来て、玄関まで出てきた私に手を差し伸べる。


「行こう、エミリア。今日はエミリアの行きたいところをたくさん回ろうな」


「劇場だけで構いませんけど」


「そうか、映画に集中するのもいいな! その服似合ってるよ。フェアリーガーデンにぴったりだ」


 クロード様は私が冷たく返すのをものともせずに、明るい表情のまま言う。


 今日着ているのは、フリル付きのブラウスに、裾のところに花の刺繍の入ったダークブラウンのスカートだ。ブラウスの胸元には黒いリボンがついており、その真ん中には妖精の絵が刻まれた金色のブローチがついている。


 なんだか張り切って支度をしてきたみたいで恥ずかしくなった。実際、昨日はそわそわと寝付けなくて、無意味に長い間服選びをしていたのだけれど。



「……動きやすい恰好の服を探したらこうなっただけです」


「今日のお祭りのために動きやすい恰好をしてきてくれたんだな! 嬉しいよ」


 今日のクロード様は何を言っても全然効かないので困る。


 クロード様は笑顔のまま私の手を引いて馬車に上がらせた。馬車の中でもクロード様はずっと嬉しげな様子でこちらを見ていた。


 街に到着すると、早速花に溢れた光景が飛び込んで来た。


 道路にはたくさんの植木鉢が並べられ、どのお店も花の飾りでめいっぱい飾り付けられている。


 空に浮かぶ風船に、花を詰んだワゴン。通り過ぎる花飾りを付けた楽しそうな人々。明るい光景に思わず見惚れてしまった。


「……綺麗ですね」


 無意識のうちにぽつりと呟くと、クロード様がぱっとこちらを向いた。


「ああ、本当だな! すごく綺麗だ」


 クロード様は私が肯定的な感想を漏らしたのがよほど嬉しかったのか、あの店の飾りつけは綺麗だとか、そこの花壇の花は珍しいとか、熱を込めて同意してくる。


 今まで素っ気ない態度か、そうでなかったらトゲのある言葉しか返してくれなかったクロード様が、こんな風に私の機嫌を取ろうとするかのように振る舞うのは、やっぱり落ち着かない。



 落ち着かない気持ちのまま、二人でクロード様が予約してくれたという劇場に向かった。


 劇場はそれほど大きくなく、中は数十人の人が入れば埋まってしまう広さだった。部屋の前方には四角い大きなスクリーンが映し出されている。

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