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「まだ帰る前でよかったよ。ほら、今度の週末からフェアリーガーデンが開催されるだろ? 一緒に行けないかと思って」
「行きたくありません。ミアさんとでも行ってこられてはいかがですか。クロード様が誘えば喜ばれると思いますよ」
きっぱり断ると、クロード様はまた悲しげな顔になる。最近の態度から考えて、なぜ私が了承する可能性があると思うのか。
フェアリーガーデンとは、このメルフィア王国で夏になると行われるお祭りだ。
期間は二週間ほどで、お祭りの間は街中が色とりどりの花で埋め尽くされる。妖精の好きな花を並べることで、国全体の加護を願う意味があるらしい。
週末になるとたくさんの妖精や花を模した商品を扱うお店が並ぶので、少女たちには大変人気のあるお祭りなのだ。
「でもエミリア、花も妖精も好きだろ? 前にエミリアが好きだと言っていた『妖精と花の迷路』とかいう映画が珍しく上映されるらしいから、予約しておいたんだ」
「勝手に予約しないでください。クロード様とは行きたくないです」
「そうか……。しつこく誘って悪かった」
冷たく断ると、クロード様はようやく諦めた様子で言った。背中を向けて去って行く彼の後ろ姿がやけに寂しく見える。
前みたいに素っ気ない私を可愛くないと怒ればいいのに。
そんな悲しげな顔で謝られたら、私がひどいことをしているみたいじゃないか。
クロード様の言っていた『妖精と花の迷路』という作品を好きだと言ったのは、三年も前のことだ。
お祖母様のお屋敷に行ったときに原作の本を読んですごく好きになったのだけれど、古い作品なのでその本を元に作られたと言う映画を観られる場所はどこにもなかった。
それをクロード様に残念だと話したのを覚えている。
あの時のクロード様は曖昧にうなずくばかりで、私の話なんて聞いてもいないように感じたのに。まさか覚えていたなんて。
「クロード様」
後ろから呼びかけると、クロード様はぴたりと足を止めてこちらを振り返った。
「なんだ?」
「本当に『妖精と花の迷路』の観られる劇場を予約してくれたんでしょうね」
尋ねるとクロード様は目をぱちくりする。それから私の言いたいことがわかったのか、大きくうなずいた。
「もちろんだ! しっかり二人分の席を取ってある!!」
「それなら……行ってあげてもいいですよ。あの映画を観られる機会なんて滅多にないでしょうし、この際一緒に行く相手は選べませんわ」
自分でもどうかと思うほど可愛げのない言い方で了承すると、クロード様はぱっと目を輝かせた。
「本当か!? ありがとう、エミリア! 今度は誰が声をかけてきても、絶対エミリアを一人にしないから!」
「期待はしないでおきます」
澄まして答えたのに、クロード様は嬉しげな顔をするばかり。
クロード様がそんな態度だと、調子が狂ってしまう。なんで今さらになって態度を変えるのだと、不満で仕方ない。
けれど、クロード様の笑顔を見ていたら、無意識のうちに私の頬も緩んでいた。




