7-1
クロード様が最近しつこい。
最近というか婚約解消を申し出てからずっとそうなのだけれど、ダンスパーティー以降きっぱり拒絶するようになってからもなお近づいてくるのだ。
むしろ前よりしつこくなった気がする。
「エミリア、おはよう。今日も早いな! よかったら今日の放課後、カフェに寄っていかないか?」
今日も朝からクロード様は無駄に明るい声で話しかけてくる。
ダンスパーティー以降、屋敷の前まで迎えに来るクロード様を振り払って自分の馬車で登校していたら、諦めて迎えには来なくなった。
けれど相変わらず朝は玄関ホールで待ち構えていて、顔を見るなり近づいてくる。
「いえ、結構です。そこをどいてもらえますか」
「つれないな。まだ授業まで時間はあるだろ? 少しくらい……」
「どいてもらえますか」
冷めた声でそう言うと、クロード様は明らかにしょんぼりした様子で道を開けた。
あまりに落ち込んだ様子なので、一瞬かわいそうになってしまった自分が悔しい。以前、私が声をかけても何をしても素っ気ない返事を返すだけだったのはクロード様のほうなのに。
「……エミリア! 今日の昼も迎えに行くから、また庭で一緒に食べよう!」
まだめげていなかったらしいクロード様が後ろから声をかけてくる。私は「友人と食べるので来ないでください」とだけ言って、教室まで足を進めた。
後ろからクロード様がまだ呼んでいる気がしたけれど、気にせず歩き続けた。
***
拒絶し続ければいつかは向こうも諦めるだろうと思ったのに、クロード様は全く引く気配がない。
すれ違えば満面の笑みで話しかけてきて、休み時間も放課後も隙を見てはやって来ては、やたらとカフェやらクロード様のお屋敷やらに誘おうとする。
もちろん全て拒否しているけれど、その度に悲しげな顔で去って行くのが腹立たしい。
今まで通り、私なんて放っておいてミアとでもいればいいじゃないか。
「エミリアさん……? クロード様と何かありましたの?」
「喧嘩でもなさったんですか? 以前はあんなに仲がよろしかったのに……」
クロード様を追い払う私を見て、友人たちが戸惑い顔で尋ねてくる。
「いいえ、元からちっとも仲良くなんてありませんでした。私、もうクロード様とは関わりたくないんです」
そう言うと、友人たちは驚いた顔をした。以前はつまらないプライドから婚約者との関係は良好だと誤魔化していたけれど、今はもうそんな見栄を張る気になれない。
そんな日々がしばらく続いたある日、放課後に馬車に乗り込もうとすると、後ろからやけに明るい声で呼び止められた。
「エミリア!」
「……クロード様」
視線を向けると、クロード様は笑顔で近づいてくる。関わらないでと言っているのを一体いつになったら理解してくれるのだろうか。




