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そもそも俺がミアの誘いを受けないでエミリアといれば、彼女が会場を離れることもなかったのだ。
しかし、そう思うと余計に引っ込みがつかなくなる。流れでついレスターの悪口を言い、俺ならあいつの家を没落に追い込めるとまで言ってしまった。
その途端、エミリアの顔がみるみるうちに青ざめていくのがわかった。彼女が手を振り上げたかと思うと、乾いた音が辺りに響く。
「いいかげんにしてください!!」
叩かれたことを理解するのに数秒かかった。エミリアは眉を吊り上げ、頬を紅潮させてこちらを睨んでいる。
叩いた? エミリアが俺を?
婚約解消を言い出す前のエミリアは、俺が何を言っても反論せず、ただただ笑顔を向けてくるばかりだった。
婚約解消を告げられた後だって、態度は淡々としていても、心の奥底からこちらを拒絶しているようには見えなかったのに。
今の彼女からは一切の情を感じられない。
エミリアは蔑んだ目を俺に向けると、二度と自分の前に姿を現すなと言って走り去ってしまった。
ドレス姿で走るエミリアには、追いかければ簡単に追いつけただろう。しかしエミリアから本気で拒絶されたショックで、俺は氷魔法でもかけられたかのように動けなかった。
「エ、エミリア……」
情けなく振り払われた手を前に突き出したまま、俺はその場で呆然としていた。
***
そういうわけで、ダンスパーティーの翌日からエミリアは俺と一切口を利いてくれなくなってしまった。
冷静になって思い返すと、自分のやったことの横暴さに頭を抱えたくなる。
彼女が言ったようにエミリアを所有物だなんて考えたことはない。
ただ、エミリアは成長してすっかり美しくなったにも関わらず自分の容姿に頓着しない上、警戒心も薄いので、悪い男に騙されないように用心していただけなのだ。
これまでの態度やミアのことを反省していたのも本当だ。これからは嫉妬を煽ろうなんて馬鹿なことは考えず、幼い時のように素直に彼女に向き合うつもりだったのに……。
しかし、それを伝えたくてもエミリアはこちらをろくに見てすらくれない。
「エミリア、ごめん……。俺が悪かったから話を聞いてくれ……!」
とっくにエミリアの姿が見えなくなった窓の前で項垂れ、誰にも聞こえることのない懺悔をした。
彼女の声が、困ったような笑みが、恋しくて仕方なかった。




