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しかし当日、帰り道に運悪くミアが用意した馬車が途中で壊れ、街の端にある宿で一泊することになってしまったのだ。
その日は朝から曇り空で、帰る時になると激しく雨が降っていた。
歩いて帰るのは難しそうで、仕方なく「今日のところは宿で休んで、明日天気がよくなってから帰りましょう」というミアの言葉にうなずいてしまった。
もちろん、何かあったわけではない。部屋は別だったし、誓ってミアに手を出してなどいない。
しかし、俺に対してすっかり冷たくなった現在のエミリアにそんな話をされては、決定的に見切りをつけられかねないではないか。
ミアの口調にはどう考えても毒気があった。おそらく、ここでダンスを断れば、実際以上に大げさにエミリアに伝えるつもりだろう。
説明しようにも、エミリアに隠れて二人で遠くの街まで出かけたことも、やむを得ないにしろ宿で一泊したのも事実なのだ。
経緯を説明したところで、信用してくれるかどうか。
俺は焼きもちを焼かせたいだなんてつまらない理由でミアを利用したことを心底後悔した。
ミアは別に俺のことが好きで「エミリアに言ってしまうかも」なんて言ったわけではないはずだ。
彼女は俺以外にも騎士団のエリートや、隣国から留学してきた公爵家の令息など、数多くの男子生徒と仲が良く、俺は彼女に気に入られた人間の一人に過ぎないのを知っている。
向こうも軽い気持ちだろうから、少し利用するくらい構わないと思ってしまったのだ。
ミアは俺が距離を置いたところで気にしないと思ったのに……。
それでも今さら悔やんだってどうしようもない。エミリアに謝って、ミアのダンスの誘いを受けることにした。
エミリアは落ち込むこともなく、冷めた目で「構いません」とうなずくだけだった。俺にもう期待はしていないのだと悲しくなる。しかし、悪いのは俺だ。
一刻も早く曲が終わればいいと思いながら、ミアとダンスを踊った。
先ほどまでエミリアと踊っていた時とは全く違う苦痛だけの時間。
時折ちらちらと横目で見ると、エミリアは心なしか悲しげな表情をしているように見えた。




