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私が口を開きかけると、レスター様がすっと立ち上がった。
「エミリアさんに文句をつける前に、自分の行いを見直した方がいいんじゃないですか?」
「な……っ!」
レスター様の言葉にクロード様の顔がたちまち引きつる。
「言っておきますけれど、僕とエミリアさんはここで会うことを約束していたわけではありませんから。エミリアさんがベンチで一人落ち込んでいる様子だったから、僕が思わず声をかけただけです。落ち込ませたのは一体誰なんでしょうね?」
「お前には関係ないだろ!? エミリアに気安く近づくなと前にも言ったはずだ!」
クロード様はレスター様に向かって声を荒げる。
レスター様は自分よりもずっと背の高いクロード様に上から睨みつけられても、全く怯む様子がなかった。
いつもは女の子みたいに可愛らしいのに、今のレスター様からは全く柔らかさを感じられない。
「……弱小伯爵家の息子ごときが俺に歯向かって、ただで済むと思っているのか?」
クロード様は冷たい声で言う。
体から途端に血の気が引いた。レスター様の家とクロード様の家とでは、圧倒的な力の差がある。
彼が手を回せば、レスター様自身の立場が危うくなることはもちろん、家にも影響が出かねない。
なんて卑怯な脅し方をするのだと、胸の内にふつふつ怒りが込み上げてくる。
「クロード様、そのような言い方はよしてください」
できるだけ怒りを抑えながら、務めて冷静な声で二人の間に割って入る。
「なんだ、エミリア。こいつをかばうのか?」
「そういう問題ではありません。その言い方ではまるで脅しみたいではないですか。侯爵家のご令息なら、その立場に相応しい態度を取られてはと言っているんです」
私の言葉に、クロード様の表情がみるみるうちに引きつっていく。
「元はといえばお前がこいつと二人でいたからだろ!? 行くぞ、エミリア! もう二度とこいつには会うな!」
クロード様は苛立たしげにそう言って、私の手を乱暴に掴む。掴む手の力が強くて、思わず眉間に皺が寄る。
後ろからレスター様が慌てて呼び止める声が聞こえた。
「エミリアさん! クロード様、手を離してあげてください! 痛がってるじゃありませんか!」
「お前には関係ないだろ! さっさと消えろ!」
クロード様はそう言ってレスター様を睨む。これ以上レスター様を巻き込みたくなくて、私は彼に向かって言った。
「レスター様、私は大丈夫です。このまま行かせてください」
「エミリアさん、でも……」
「クロード様と二人で話したいんです」
きっぱりそう言うと、レスター様はしばらく迷うように視線を彷徨わせた後、小さくうなずいた。ひとまずほっと息を吐く。




