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私、エミリア・バーンズと、婚約者のクロード・エイデンの婚約が決まったのは、六歳の頃のことだ。
元々私の両親とクロード様の両親は王立学園時代の同級生で、四人揃って交流があった。ちょうどそれぞれの夫婦には男女の同い年の子供がいたことから、四人は子供同士を婚約させることに決めたらしい。
婚約が決まる前も、両親は時折兄と私を連れてエイデン侯爵家を訪れていたため、ほんの小さな頃からクロード様のことは知っていた。
銀色の美しい髪に、キラキラ輝くアメジスト色の目をしたクロード様を初めて見たときは、子供ながらになんて綺麗な方なのだろうと見惚れてしまったことを覚えている。
伯爵家と侯爵家で家格に差はあったけれど、元々両親同士の仲が良いために結ばれた婚約だ。あまり身分を意識することはなかった。
クロード様の両親も、エイデン侯爵家に行ったときはいつも私をまるで本当の娘のように歓迎してくれた。
婚約した当初は、クロード様自身も冷たくなかった。
初めて会ったときこそあまりの美しさに気後れしてしまった私だけれど、すぐに彼が親しみやすい人だと気が付いた。
クロード様は一見冷たそうな外見とは裏腹に面倒見のいい人で、引っ込み思案な私を引っ張って、いつも色んな場所に連れて行ってくれた。
しかし、いつからだろう。優しかったクロード様が素っ気なくなったのは。
私が話しかけても曖昧な返事をするばかりで、勇気を出して買い物や観劇に誘っても用事があるからと断られる。
笑顔を見せてくれることはいつのまにかなくなっていた。
クロード様がそんな態度を取るのは私にだけで、他の方にはむしろとても感じが良かった。
侯爵家の生まれで、大変美しく優秀なのに気取らないクロード様は、みんなから好かれている。
私はクロード様がたくさんの人たちに囲まれて微笑むのを見る度、いつもいいようのない疎外感に襲われた。
でも、それは当たり前のことなのかもしれない。
銀色の髪に紫の瞳の、人々の視線を一身に集めるようなクロード様に対して、私は薄茶色の髪に濃い青の目の、どこにでもいる容姿。
成績だってクロード様と比べたらぱっとしないし、注目を集めるような特技もない。
子供の頃はわからなくても、成長するにつれてクロード様は私が自分には釣り合わない存在だと気づいていったのかもしれない。そう考えた途端、ずしりと胸が重くなった。
それでも私は幼い日の彼との思い出が忘れられず、ずっと諦めきれずにいたのだ。
ずっとこのまま振り向いてくれないクロード様を追い続けるのだと思っていた。どんなに冷たくされたって、私からクロード様から離れることはないと。
けれど、今ふいに、彼から離れたいという思いが胸をかすめた。
嫌いになったわけではない。今だって、ミアと微笑む彼を見ていると胸が痛む。
けれど、今までと違うのは、もう彼を追いかけるのはやめてもいいんじゃないかと思えること。