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「ありがとうございます。……でも、去年のドレスなんてよく覚えていましたね」
「え? あっ、いや! 僕、姉の影響でドレスとか見るの結構好きだからさ!」
私が何気なく言うと、レスター様はちょっと慌て顔になる。なぜか焦った様子のレスター様がおかしくて、つい笑ってしまった。
「……そんなに笑わなくても」
「ふふっ、ごめんなさい。レスター様が慌てているのがおかしくて……」
「慌てている姿がおかしいって、エミリアさんひどくない?」
笑いながら言うと、レスター様は不満顔で抗議する。私は何とか笑いをこらえながら謝った。
ああ、なんだか楽しいな。さっきまでクロード様とミアが躍るのを見てあんなに落ち込んでいたのに。今は憂鬱な気持ちがどこかへ行ってしまった。レスター様には感謝しないと。
「エミリアさん」
「え?」
呼ばれてレスター様の方に視線を向けると、ベンチの上に置いていた手の上に、そっと彼の手が重ねられた。
驚く私に、レスター様はやけに真剣な顔で言う。
「あのさ……クロード様と婚約解消するって、本当なの?」
「え……っ」
突然発せられた言葉に、動揺して言葉が出なくなる。レスター様は躊躇いがちに続けた。
「ごめん、実は友達に、早朝に君とクロード様が婚約解消がどうのって争っていたっていう話を聞いて……。その後見ていても二人ともいつも通りだったし、むしろ普段よりよく一緒にいるくらいだったから、ただの喧嘩かなとは思ったんだけど」
「ええっと、それは……」
「でも、君は今日パーティーだと言うのに一人でいるし、ドレスもクロード様の目の色とも髪の色とも違う色を着ているし、もしかしたら本当に婚約解消を考えているんじゃないかと思って」
レスター様は私の目をじっと覗き込みながら、真剣な声で言う。
考えてみれば、あんなに大声で玄関ホールの前で話してしまったのだから、婚約解消の件が噂になっても何もおかしくはなかった。今日まで誰にも聞かれなかったのが不思議なくらいだ。
レスター様と同様にただの喧嘩だと思ってくれたのか、水面下では噂になっているのか。
考え込む私の手をレスター様がぎゅっと掴む。
「エミリアさん、本当はずっと前から君たちの関係には違和感があった。クロード様は人前では理想的な婚約者のように振る舞っているけれど、君を差し置いて下級生の女の子と楽しげに話したり、パーティーの場でも君を放っておいて平気だったり、何か変だなって」
「それは……」
「そのくせ、クロード様が君に他の男子生徒が近づかないように裏で牽制しているのも疑問だった。侯爵家のご令息にエミリアさんに近づかないよう言われれば、大抵の生徒は従うしかないよね。僕は気にしなかったけど」
「え?」
予想外の言葉にぱっとレスター様の顔を見る。クロード様が、ほかの生徒を牽制していた? それは本当のことなのだろうか。




