5-3
「あれ、エミリアさん? こんなところで一人で何してるの?」
「レスター様……?」
ふいに声が聞こえ、顔を上げるとそこにはレスター様がいた。
レスター様は、私と同じく伯爵家出身のご令息だ。クラスは違うけれど、精霊学や薬草学の選択授業でよく一緒の教室になるため、時折話すことがある。
小さい頃よく近所に住む男の子にいじめられたせいで、未だに男子生徒と話すと気構えてしまうところがある私も、レスター様には気負いなく接せられた。
それというのも、レスター様は少し長めの金色の髪に緑色の大きな目、私と同じくらいの背丈と、まるで女の子のような外見をしているのだ。
中性的な美少年という雰囲気で、内面もお姉さんが四人もいるせいか女子の話題に精通しており、よく流行りの洋服店やお菓子のお店を教えてくれたりする。
こんなことを思うのは失礼かもしれないけれど、私にとってレスター様は女の子の友達の一人という感覚に近かった。
「隣に座ってもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
小首を傾げて尋ねられ、私はこくりとうなずいた。レスター様は「ありがとう」と人懐っこい笑みを浮かべて言い、隣に腰を下ろす。
「婚約者とは一緒じゃないの? ほら、君のすごい美形の婚約者」
座るなり、レスター様は何とも答えにくい質問を投げかけてきた。私は何と言い訳しようかと言葉に詰まる。
「クロード様はミアさんと踊っているので、それを見ていたくなくて一人で出てきたんです」なんて、本当のことを言いたくない。
かといって、会場を抜け出して庭のベンチに一人でいるちょうどいい理由なんて思いつかない。
私が答えに窮しているのに気づいたのか、レスター様は私の返事を聞く前に口を開いた。
「もしかして人混みに酔って外に休みに来たとか? 会場は人が多くて疲れるよね」
「……そんなところです」
「やっぱり? 実は僕もなんだ。本当はダンスパーティーとか苦手でさ。本音を言うと毎年開催するのはめんどくさいからやめてくれないかなって思ってる」
レスター様は明るい声で言う。
毎年、主にクロード様のことでダンスパーティーを憂鬱に思っていた私は、彼の言葉を聞いて少し心が軽くなった。
「私も……このパーティーはあまり好きじゃありません。着飾るのも会場できちんと振る舞うのも面倒で。中止になってくれないかと思うこともあります」
「ははっ、完璧な淑女と名高いエミリアさんがそんなこと言うなんて! エミリアさんのファンが聞いたら驚くね」
「じょ、冗談やめてください。ファンなんているはずないじゃないですか。その『完璧な淑女』と言う言葉も、誰かがお世辞で言い始めたんだと思いますけれど、私はちっとも完璧じゃないから気が引けるんです」
「エミリアさんって自己評価低いよね」
レスター様は私の顔をじっと見ながら、残念なものでも見つめるみたいな表情をする。
「そんなこと……」
「着飾るのが面倒って言ってたけれど、そのドレスとても似合ってるよ。去年着てた白い生地に銀刺繍の入ったドレスもよかったけど、僕はそっちの方が好きだな」
レスター様はそう笑顔で褒めてくれる。嬉しく思うと同時に、不思議な気持ちになる。




