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それでも、毎年ダンスパーティーで屈辱を味わわされていることには変わりない。私は今年はクロード様なんかに煩わされないようにと、意気込んだ。
そうだ。今まで大人しく壁の花になっていたけれど、今年はほかの人と関わってみてもいいかもしれない。
友人たちは今年も婚約者といるだろうけれど、パーティー会場には普段の学園生活ではなかなか会わないような人もたくさんいるはずだ。
私はあまり社交的なタイプではないけれど、今年は思い切って気の合いそうな人に声をかけてみるのもいいんじゃないかしら。
そう考えてみたら、憂鬱な気分は少しだけ和らいだ。毎年毎年、クロード様に振り回される必要なんてないのだ。
「エミリア」
静かに意気込んでいたところで、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには黒のタキシードに身を包んだクロード様がいる。正装をしたクロード様は、普段にも増して美しい。いっそ神々しいほどだ。
一瞬見惚れかけ、慌てて頭を振った。クロード様なんかに見惚れたくない。この人は外見は美しくても、内面は冷たくて横暴な人なのだから。
「エミリア……着てくれたんだな。そのドレス」
「え?」
クロード様は、顔を赤らめ、いつもより大分頼りない声で言う。
「えぇ、贈られたドレスを着ないのも気が引けますから」
「その……似合ってる」
クロード様が目を泳がせて照れたように言うので、私は目を見開いた。
一体、どういう風の吹き回しだ。中等部から毎年ダンスパーティーに参加してきて、一度もドレス姿を褒めてくれたことなどなかったのに。
「それはどうも」
喜びよりも不信感のほうが強くて、私は冷めた思いで返事をする。私の反応が気に入らなかったのか、クロード様は眉を顰めた。
「なんだ、せっかく褒めてやったのに。可愛くない奴だな」
「だって今まで一度もドレス姿を褒めてくれなかったクロード様が珍しくお褒めの言葉をくださったんですもの。驚いてしまって、可愛く喜ぶなんてできませんでしたわ」
「嫌味ったらしい奴だな。前はもっと素直だったのに……」
クロード様はぶつぶつ文句を言っている。
「いきなり態度を変えられても困惑しかできません」
「……俺だって、少しは悪かったと思ってるんだ。せっかくこれからは思ったことを口に出そうとしたのに……」
クロード様はまだぶつぶつ言っている。
彼の言葉が少し引っかかった。これからは思ったことを口に出す。まるで今までも内心では褒めてくれていたかのような口ぶりだ。
「いいから早く行きましょう。パーティーが始まってしまいますわ」
そう言うと、クロード様は何か言いたげにこちらを見た後、納得できない様子ながらもうなずいた。
「手を貸せ」
クロード様は命令口調で言いながら手を差し出す。私は表情を変えないままその手を取り、会場まで歩きだした。




