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「今年もドレスを贈ってやるよ。どんなのがいい?」
「え?」
突然そんなことを言われ、驚いてクロード様のほうを見ると、さっと目を逸らされた。頬が若干赤く染まっている。
クロード様は、なぜだかドレスとアクセサリーだけは毎年贈ってくれていた。
入学して初めてのパーティーでは、彼が私のためを思ってプレゼントしてくれたのだと思い、歓喜したのを覚えている。ドレスはクロード様の目の色と同じ、美しい紫色をしていた。
しかし、期待に胸を膨らませて行ったパーティーでクロード様は、もらったドレスを着ている私に何の反応も見せなかった。
褒めてくれるんじゃないかなんて期待していた自分が恥ずかしくなるくらいクロード様は私に関心を向けず、そのまま義務的に手を取って会場までエスコートする。
そんな彼を見てようやく理解した。
ドレスを贈ってくれたのは、単に慣習に従っただけなのだと。
パーティーには婚約者と参加することと同様、パートナーの女子生徒には男子生徒からドレスを贈るのが暗黙の了解になっている。クロード様はそれに則っただけだったのだ。
外面のいい彼らしい。私が誰かにクロード様がドレスを贈ってくれなかったなんてこぼさないよう、わざわざドレスを用意したのだ。
次の年からは何の期待もしないようにしていたから、彼が無反応でもそれほどダメージを受けないで済んだけれど、ドレスの箱が届くたびにほんの少し喜んでしまう自分が惨めで悔しかった。
……駄目だ。ダンスパーティーのことを考えると、嫌な思い出が次々と蘇ってくる。
「……今年はドレスはいりません。自分で用意できますので」
「毎年贈っているだろう。素直に受け取れよ、可愛くない奴だな」
可愛くない奴にしたのは誰なんだと、恨めしく思いながらクロード様を見る。
彼は顔をしかめて、じっとこちらを見ていた。この様子では断ってもどうせ送りつけてくるのだろうなと思う。
「……それならば紫色でも銀色でもないドレスがいいですわ」
クロード様の目の色とも髪の色とも違うドレスがいいと暗に告げる。私の意図がわかったのか、クロード様は眉間の皺を深くした。
「……具体的に何色がいいんだ」
「紫と銀以外なら何色でも構いません」
「まぁいい。用意してやるから着てこいよ」
クロード様は不機嫌な声で言う。これ以上何か言っても時間の無駄だと思い、私は黙ってうなずいた。
***
そうしてあっという間にダンスパーティーの日を迎えた。
クロード様から送られてきたのは、桃色の生地にふんわりとしたレースのたくさんついた愛らしいドレスだった。
色合いだけなら少々子供っぽく見えそうだけれど、そのドレスは腕や腰のあたりがきゅっと細くなっていて、背中や腕の一部に露出し過ぎない程度に切り込みが入っているため、適度に大人っぽく見える。
悔しいけれど、正直に言って大変好みのドレスだった。
少々の悪意を込めて紫の銀以外のドレスが良いと注文したにも関わらず、クロード様が割と趣味のいいドレスを贈ってくれるのは予想外で、私は少々気を削がれてしまった。




