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俺はどんどんエミリアに素直に振る舞えなくなっていった。
エミリアがプレゼントを持ってくるのも、出かけようと誘ってくれるのも嬉しいのに、意思に反して突っぱねてしまう。
彼女以外の人には、もっと自然に振る舞える。むしろ、俺は誰とでもそつなくつき合える方だと思うのに。
エミリアを前にすると、思いとは正反対の態度を取ることをやめられないのだ。
エミリアは俺がどんなに冷たくしても、めげずに笑顔を振り撒いてやって来る。
幼い頃からの付き合いだから、きっとエミリアも俺が本心から拒絶しているわけではないとわかっているのだろう。そう考えると安心した。
ただ、エミリアは俺が彼女の言葉を拒絶した瞬間だけ悲しそうな目をする。彼女のそんな目を見ると、罪悪感と同時に自分でも理解できない感情が湧き上がった。
今ではすっかり隙を見せなくなった「完璧な淑女」のエミリアに、そんな目をさせられるのは自分だけだと思ったから。
俺の中に、エミリアが俺のことで悲しむのをもっと見たいという暗い感情が芽生えたのはその頃だった。
そのうちにエミリアの悲しげな目を見るのに有効な方法があることに気がついた。
エミリアは、俺が一学年下のミア・ノールズと話していると、普段よりもずっと悲しそうな顔をするのだ。
男爵家出身のミアは明るくて人懐こく、俺のことを気に入っているようですれ違う度に駆け寄ってくる。
エミリアは嫉妬深いタイプではないと思っていたが、ミアが近づいてきた時だけは恨めしげにこちらを見るのだ。
ミア自身には何の興味もなかったけれど、彼女といればエミリアの嫉妬を引き出せると思うと、自然に笑みが溢れる。
俺はエミリアが見ている前で、ミアにわざとらしく微笑みかけるようになった。
罪悪感がなかったわけじゃない。けれどエミリアの感情を揺さぶれる喜びの方が上回った。
いつかはこんなことをやめようとは思っていたのだ。
ちゃんとエミリアを大切にして、幼い頃のように良好な関係に戻ろうと。
けれどエミリアは決して俺に怒らなかったし、悲しそうな顔はしても不機嫌な態度は取らなかったから、それに甘えてしまった。
だからエミリアがあそこまで不満を抱えているとは、思ってもみなかったのだ。




