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クロード様がミアに柔らかく笑いかけるのを見た瞬間、私の心は凍りついた。
私にはもう随分長い間向けられていない笑顔。
クロード様とミアは、花壇の前で肩を寄せ合って楽しげに何か囁きあっている。
ふと、ミアが驚いたように肩を揺らした後、クロード様にしがみついた。蜂でも飛んできたのかもしれない。
クロード様は優しい笑顔を彼女に向け、その肩を引き寄せる。
(……なんだかもう……無理かも)
唐突にそんなことを思った。
今までずっと、ほんの小さな頃からずっと、クロード様だけを見てきた。
彼はいつだって素っ気なかったけれど、何とか距離を縮められるように頑張ってきた。
そうしたら、いつか冷たい彼がもう一度私に笑顔を向けてくれるんじゃないかと信じてきたから。
けれど、彼は私以外の女の子には、こんなに柔らかな笑顔を向けるのだ。
私の頑張りなんて全て無駄だったんじゃないかと思ったら、足元から力が抜けていく。
「もう終わらせるべきなのかもしれないわ……」
クロード様の剣術の稽古を見に行って冷たく追い返された時も、作ったクッキーを受け取ってもらえなかった時も、普段ならもっと頑張ろうと思えたのに。
どうしてか今日はそう思えなかった。
疲れちゃった。もう終わりにしたい。
私を見てくれないクロード様に縋るのは、もう限界だ。
幸せそうに寄り添うクロード様とミアを眺めながら、私は決意する。
もう、彼を離してあげよう。
そして私も、彼から自由になるのだと。




