やっと、距離が縮まった!
海から帰ってきて、兄弟二人共疲れていたけれど心は弾んでいた。
玄関を開けると両親二人して出迎えてくれる。帰る途中で電話したのだが、つい最近まで引きこもりの兄の運転だ心配するのが普通だろう。俺と兄の顔を見比べながら、嬉しそうにほほ笑む。俺だってまだ隣にいるのが信じられない気持ちなんだから。まあとにかくこれからは前に進むことに決めた兄を見守ることしかできない。
親と軽く話をしてお土産を渡すと嬉しそうに受け取る。土産売り場によくあるような、饅頭とエビせんべいと果歩が持たせた魚たちのオプジェだ。母さんが「まあ、よく気がきく方ね。うちに連れてくれればよかったのに」とほのめかす。寡黙な父さんも笑っている。
清和の手前あまりはしゃぐこともひかえている様子。
それを感じとったのか「まあ、いそぐことないんじゃねえ」と清和が口をはさむ。
「まあ、そうねでも清は奥手だから。見ているだけで満足だってタイプだし」
清和と俺は思わず、お互いを見てしまった。母親って侮れねー。
海の香りや、べたべたになった身体にシャワーの無数のしぶきが肌に心地よい。石鹸の香りに包まれて部屋を出る。清和がすれ違い様にぼそっとつぶやく。「俺たち兄弟って不器用だな。しかし柳沢がライバルとはハードル高い。まあ彼女の視線の先がやっとお前に向いたんだ。よかったな」
そう、この言葉に俺はピンときていた。ずっと俺の部屋の写真立てに収まっている写真。柳沢先輩の家で撮った写真は果歩と不自然な距離を置いて俺が写っている。本当は果歩の隣には先輩。俺の隣には先輩の弟、良介がいたのだが邪魔なものはハサミで切り落とされていた。二人しか映っていないのに、果歩の視線は先輩にいつもむいていた。そういう写真が何枚か飾ってあった。
そう、今回の写真でやっと普通に隣に立つことができたのだから。(チャンスはわずかながらむいてきたのかな)写真立ての二人の距離を塞ぐように指を置く。