初恋の君…写真の不自然な距離
俺 榎本清は、いささか興奮していた。
コンビニの初バイトで紹介された秋元 果歩に再会したから。
僕の淡い初恋は蓋をしたはずなのに、曖昧な気持ちの隙間から彼女への思いが再び蘇ってくるのを感じていた。
いざ仕事に入ると彼女とはシフトが入れ違いで、挨拶を交わす程度だった。
それでも、その瞬間をいつも待ちわびている自分がいる。
彼女との出会いは何年前だろう。俺は小学生の頃、同級生の柳沢 良助の家に頻繁に遊びに行っていた。彼とは、とても気があっていた。笑いのツボが同じだとか…。文房具の好みも同じでほぼおそろいで買いそろえた。彼の家ではテレビを見たりビデオをみたり、○○カードゲームをしたりして遊んでいた。まあ、小学生の頃はそんなものだろう。
僕の他にも柳沢家にいつも入り浸っていた女の人がいた。セーラー服を着ていたので僕より少し年上の中学生だということはわかっていた。良助が言うには兄、洋一のファンだそうだ。洋一は、サッカーをやっていてやたらともてているらしい。確かに、多いときは5,6人の男女が家にいたっけ。
俺は、ある時からふと彼女に視線がいくようになっていった。
恋というものとは無関心な時期だったが。
いつからか、彼女を見るのが楽しみになっていた。別に、彼女と会話をするでもなく、視線の片隅で彼女の姿を追うだけで満足な日々だった。中学生の彼女は、僕の周りの同級生より少し大人っぽさを醸しだしていた。陽気に笑う彼女。日差しに目を細める彼女。僕の目のフィルターはいろんな、いろんな角度から彼女を写し出していた。
初恋…この頃を言葉に表わすとするとびったりな言葉だと思う。
それでもそんな僕のことなど眼中になく、彼女の視線は兄の良助にしか向いていない。
その頃良助は、初めて買ってもらったスマホで頻繁に俺たちや風景写真などを撮っていた。
ずっと今でも俺の部屋の写真立てに収まっている写真は、柳沢先輩の家であの頃撮ったものだ。
果歩と不自然な距離を置いて俺が写っている。
本当は果歩の隣には先輩、俺の隣には先輩の弟 良介がいたのだが邪魔者はハサミでバッサリ切り落とされていた。二人しか映っていないのに、果歩の視線は先輩にいつもむいていた。まあ無理やり切って二人にしたのだからしょうがない。
そういう写真が何枚か飾ってあるのは、それが唯一彼女が写っている写真だから…。
その写真は、時と共に少し色あせてきていた。