◇気にかけられた
「あら杏花、おかえりなさい」
「ただいま、お母さん」
「もうすぐご飯できるから、手を洗ってらっしゃい」
「はーい」
「お父さんも呼んでね。」
家に帰ると、お母さんが温かく迎えてくれた。
あれから、厳しいリハビリも終えて、外に出るときは杖を使うものの、お母さんも日常生活ができるまでになった。
お父さんも、単身赴任を終えて一緒に住んでいる。
部屋に荷物を置きに行くと、ベッドサイドにクマのぬいぐるみが置いてある。
「カズくん、ただいま!」
元は毛がふわふわとしていたテディも、毎日のように抱きしめて眠っていたら、しなしなしている。
◆◇◆
無理しなくてもご飯が食べれるようになるにつれて、夜も少しずつ寝つきやすくなった。
しんどいときは和也くんが頭を撫でてくれて、手を繋いでてもらって少しだけソファでお昼寝をさせてもらった。
そんなとき、この子はやってきた。
はい、と、なんでもない日に渡された、大きな袋。
プレゼントみたいな、ピンクの袋の口は赤いリボンで結ばれていた。
茶色くて大きい、黒いくりくりおめめのテディベア。
「ふ、ふわふわ…!」
「おう」
「何この子!!かわいーー!!」
きゃー!とテンション上がってテディの手をとってわたしはくるくるとリビングを踊る。
「今年お前の誕生日祝う暇なかったろ」
和也くんはテーブルに頬杖をついてそんなことを言いながら、抱きしめたりふわふわの手触りを堪能しているわたしを眺めていた。
「眠れないときのお守りな」
「ありがとう!これ、和也くんだと思って寝るね」
「や、うーんそれは…うん、それでいい、何でもいい眠れるなら」
あまり上手く眠れていないわたしのために、和也くんはいろいろ考えてくれていた。
「名前はカズくんにしよう」
「……勝手にして……」
そうやって呆れながら和也くんは背を向けて夕飯を作り始めたけど。
知ってるんだ。こうやって、ぶっきらぼうでもわたしのことを気にかけてくれる。
これはもうずっと、小さい頃から。
ずっと先を走って置いていこうとするくせに、ついてきてるか、転んで泣いてないか、たまにちらっと振り返ってくれるんだ。
◇◆◇
出会ったときから、今まで、わたしの生活のいたるところに、和也くんが色をつけているのに。
「ずっと、子守してくれてたのかな」
3つも下の、近所のガキの。
「そりゃそーだ。」
わたしの3つ下って、高校1年生で、わたしが制服をやっと着ているくらいの子を好きになるかって言ったらならないと思う。
部活の後輩だって、とても幼く見えるもん。
「わかってるんだから。ちゃんと振ってよね」
ぎゅーっと、そのぬいぐるみを抱きしめる。
「バーカ、バーカ。和也くんのバーカ。」