◇置いてかれる
「よぉ」
「あ…おかえり。ただいま」
「ん。部活帰り?」
玉砕覚悟の告白も流されて、恨めしい気持ちも気まずい気持ちもあるのに、帰り道に会うと和也くんはいつもみたいに声をかけてくれた。
そっか、和也くんにとっては「なかったこと」になってるんだもんね。
「うん」
「マネージャー続いてるねぇ」
「うん、向いてたみたい」
走れなくなってから、わたしは陸上部のマネージャーをやっていた。
走っているのを見ると羨ましくもなったものだけど、そのサポートもなかなかやり甲斐がある。
大学に入ってからもそれは続けていた。
和也くんを追いかけるため半分、駅伝も強い大学だからというのが半分、この大学に入ったのだ。
「和也くんは?バイト帰り?」
「あたりー。来年から働くとこでバイトしてんの」
“来年から働くとこ”とは。
「あ、和也くん、もう就職かぁ」
わたしが1年生、和也くんは4年生だ。
「そー。やっと社会人よ」
同じ学校に通うのなんて小学生以来で、浮かれていたが、一緒に通えるのなんて1年間だけ。
それも、小学校みたいに毎日決まった時間に投稿するわけじゃない。
「やっと、追いついたのに…」
恨めしい思いで呟くと、和也くんは声を上げて笑った。
「年の差はいつまでも変わんないわ。オレの中では今でも杏花は幼稚園の制服着たガキのまま」
決定的だ。
「えええ、もうこんなおっきくなったのに!!」
「はいはい。じゃあな」
いつの間にか家に着いていたわたしたち。
和也くんはヒラヒラと手を振って、自分の家のドアを開けて入って行った。
その後ろ姿が、すこーし滲んだ。
「…幼稚園のガキのまま、かぁ…」
決定的なのに、わかってるのに、なんで。