◆子守りする
家族ぐるみの付き合いだし、親たちに報告しといた方がいいよねと杏花が言い出した。
言わなくていいんじゃないと思ったが、遅かれ早かれバレるだろう。
杏花、嘘つけないし。
反応は三者三様だった。
杏花のママは「きゃあ!そうなったらいいと思ってたのよー!よかったわぁ。告白はどっちからなの??」と少女のように馴れ初めを根掘り葉掘り聞いてきた。
一方で杏花のパパは、杏花のママを嗜めつつ、大変複雑そうな顔をして、下手に知らない男のところに行くよりはとブツブツ言っていた。
…気持ちは、ちょっとわかる気がする。
そしてうちのお袋ときたら「あら、まだ手を出してなかったの?これだけベッタリ一緒にいて?情けないわあ。まったく、誰に似たのかしら。」とため息。
…クソババア…
かくして、両家公認の仲になったわけである。
「ねぇねぇ和也くん」
日曜日、遅めの朝飯を食べていたら、杏花が遊びにきた。
どこか行くかと話して、食器を洗っていたら、後ろから抱きついてくる杏花。
「これからはこうやってぎゅってしてもいいってこと?」
「………」
え?何?誘われてる?試されてる?
「そうだな……デートしよっか、杏花」
密室に2人切りはよくない。…まだ。
拒否にならないように気をつけながら腰に回った腕を解き、肩を掴んで杏花をゆっくり引き離し提案をする。
すると、杏花の目が輝いた。
「デート!あのねあのね、わたし行きたいところがあってね!海の見えるカフェと、あと動物園も行きたいなあ。学校帰りにクレープ食べるのもいいなあ。」
「はいよ」
「3回目のデートは、遊園地で」
「…3回目?」
「うん、ファーストキスは、遊園地の観覧車でがよくてね?」
「……ん?」
ナニソレ。
真面目なお付き合いをしてこなかった弊害なのか。
え、そういう感じなの?
ファーストキスに憧れとか考えたこともなかった。自分のファーストキスとか覚えてないし。
そういえば杏花の部屋には少女漫画が並んでいるな。キラキラした目の大きいやつ。読んだことはないが。
「なるほどね?あとは?」
憧れのシチュエーションやらデートスポットやらが出てくる出てくる。
曰く『彼氏とやりたいことリスト』があるのだそうだ。
あー危なかった。勢いで家とか適当なところでして怒られるところだった。
自分の部屋で寝起きで髪ぐしゃぐしゃで、ロマンチックも何もない喧嘩腰の告白は杏花的にオーケーなのか?藪蛇は嫌だから聞かないけど。
この感じだと、憧れの初体験!とか憧れのプロポーズ!とか、憧れの結婚式!とか、こだわりあるんだろうか。あるんだろうな。めちゃくちゃ。
…えー、キャラじゃないんだけど。
「ねぇ和也くん、聞いてる?」
「ハイハイ、聞いてますよー。オレの子守りはまだ続くわけねー」
「子守りってなにそれー!?わたし和也くんの彼女になったんだよね!?」
「はは、そうだよ。」
怒りながら不安そうな顔をする杏花が可愛くて。
「仰せのままに、お姫様」
杏花の手を取って、手にキスをすれば、
「な…っ」
真っ赤になって慌てる杏花を見て、オレのプライドが少し満たされた。
ハイハイ、付き合いますよ、ちょっとなら。
「ほら、出かける準備して来いよ。デート行くんだろ」
「! うん!」
用意してくるとパタパタ家を出て行く杏花に、思わず微笑みが漏れた。
しばらくは、相変わらずの子守りなんだろう。
まあ、いいけど。