◇心配される
びっくりしたのと嬉しいのとで、和也くんが帰ったあとも興奮で寝れない!
と思いながら、すぐに睡魔が来て、朝までしっかり寝た。
疲れてたのと、安心したのとで、とても幸せな夢を見た気がする。
「きょ、杏花ーー!!」
教室で席に座るわたしの顔を見るなり、りっちゃんがわたしのところに駆けてきて抱きしめられた。
部活の友達や先輩から、心配するメッセージがちらほら届いていた。りっちゃんからも。
「大丈夫なの?もう学校来て」
泣きそうな顔をして、わたしの手を握る。
「うん、大丈夫だよ、心配させてごめんね。」
「心配したよ!体調悪そうにしてたと思ったら急に…無理にでも帰せばよかったのかなとか思ったし」
「大丈夫。寝不足と、ちょっと…救急車に乗ったことあって、調子悪いと、その…」
「うんうん、そうだったんだね。あたし何にもできなくて…」
「ごめ…」
「あの人が助けにきてくれてよかったね。ヒーローみたいだった」
カバンを下ろして、隣に座りながら、りっちゃんは続ける。
「杏花、好きな人って昨日のあの人なんでしょ?」
わたしは、手に持ってたルーズリーフを落とした。
「なんで知って…」
「ずっとそうかな?とは思ってたんだけどね。部活の先輩とかじゃないのに親しげに手振ったりしてるし、あの人と話してるときはいつもよりデレデレだし」
「デレ…」
「プチ失恋したと言い出したかと思えば、急に学食行かないとか言うし…そんなのあの人に会いたくないとしか思えないじゃん」
「わー…」
わたしは両手で顔を覆った。
隠していたわけではないが、全て見られていたと思うと、とても恥ずかしい。
「昨日も、杏花が気を許してそうだったから任せたけどさ」
「う」
「じゃなきゃ、いくら杏花を助けてくれた人でも知らない人と2人だけで帰さないよ。」
「む」
「というか、今日部活でみんなに質問攻めだからね」
そして、好奇心を全面に出したりっちゃんは、肘でツンツンとわたしをつついた。
「それで?仲直りできたの?」
これは、逃げられない。
「ええっと…付き合う、ことに…」
きゃああああとりっちゃんが悲鳴をあげたところで、教授が入ってきて授業が始まる。
「次の時間詳しく聞くね」
今回ばかりは、“知らないふり”はしてもらえそうにない。
◇◆◇
りっちゃんの言う通り、部活のみんなは、心配しつつも昨日の男の人何と質問攻めだった。
コーチに嗜めるられながらもいろいろ聞かれて、部活が終わる頃には別の意味で疲れ切っていた。
槙野先輩とは、部活終わりに話をした。
一番に体調の心配をしてくれた。優しい。
「そっか」
ごめんなさいと言うと、先輩は静かにそう言った。
「寂しそうな顔してるから、ちょっとはチャンスあるかなと思ったんだけど」
先輩は、肩にかけたハンドタオルで汗を拭った。
「そんな隙ないって、見せつけられちゃったな」
苦笑いする先輩。
こういうとき、なんて言ったらいいかわからない。
「あ、でも、これで気まずくなるのナシな!仲良い先輩後輩として部活も楽しくやりたいし!」
パタパタ手を振ってそう言う先輩。
「大会観に行ったのも普通に楽しかったし。今度他の奴らも誘って行こうよ。里佳子ちゃんとか」
先輩が気を遣って言ってくれてるのがわかった。
槙野先輩がそう言うなら、本当に今まで通り接してくれるだろう。
でも、もう今までみたいに気軽に話しかけられないし。相談もしたら乗ってくれるだろうけど、あんまり甘えない方がいいだろう。
優しいなぁ。
和也くんが近くにいなかったら、こういう人と付き合ったりしたんだろうか。
だって、隣に住んでなかったら、和也くんって接点とか全然なさそうな、交わらないタイプだし。
「切ないなぁ」
じんわり汗をかいて、タオルで汗を拭きながら、思わずつぶやいた。