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◆誤解をとく

赤くなって怯えるような表情も見せる杏花に不安になりながらいると、杏花は突拍子もないことを言い出す。


「好きな人…いるんじゃ…?」


自覚したばかりの好きな人は目の前だが、その本人が言うような好きな人は思い当たらない。


「そうだよ!好きな人」

「あ…?」

「この前駅で会ってたでしょ?いつも連れてる女の人と雰囲気の違う人!」


いつも連れてる…間違ってない…か。

なんで知っているんだろう。中学のときのあの一件依頼、紹介したことなんてないのに。


「長くない黒髪で、にこにこしてた女の人…顔赤くしてて」

「にこにこ…?」

「そのあと健太郎くん来て手繋いで歩いて行ったから、その…健太郎くんの彼女さんなのかなって…」

「優ちゃん…?」

「バレンタインのときも、たまたま見ちゃったの。わたしのバレンタイン、もしかして他の女の人と選んだのかな?って思ってて、いつもの女の人と全然雰囲気違うから本命…」

「…優ちゃん…」

「友達の彼女に片思いなんでしょ?だから」


うるうると涙を浮かべる杏花には頭を抱えたくなりながら、


「ストップ!ちょい聞け。」


オレは本日2度目のストップをかけた。



◆◇◆



バレンタインは杏花に逆チョコあげる、なんて言ったものの、何を選べばいいんだ。というかあの女だらけの店内に入って行くのもなぁ。空いている時間帯もあるんだろうが、今日しか時間取れないし。

ぬいぐるみは前あげたしなー。やっぱりチョコか。

と、悶々としていると知った顔を見つけた。


「優ちゃんじゃないのー」

「和也さん、こんにちは」

「優ちゃん、健太郎にバレンタインのチョコもう買っ……作る派?」

「健太郎や友達には作りますけど…姉の会社用にお使い頼まれてるんです」

「お、よかったらさぁ、チョコ選ぶの付き合ってくんない?」


近所の受験生の女の子に逆チョコあげる約束したと掻い摘んで話すと、優ちゃんは快諾してくれた。

女の子と一緒なら、居心地悪さは少し軽減されるからありがたい。混んでるけど。


「へー、いろいろあんのね」

「迷っちゃいますよね」


そう言いながらも、優ちゃんは目星をつけていたのか、ポンポンと、カゴに入れていく。


「どういうのがいいんだろ」

「どういう子なんですか?」

「真面目」

「真面目、ですか」

「それはもうね、生真面目。愛想振りまいたり苦手だしね。その割に甘えたなんだけど」


へえ、と、優ちゃんは面白いものを見るようにオレを見た。

話し過ぎた気がする。


近くにあった箱を手にとって、話題を変える。


「どーゆーのがいいの?女の子って」

「うーん、分かれますよね。うちの姉は形より味派ですし、妹は味より花とか動物の形とか箱の柄喜びますし」

「箱…?」

「ピンクのハート柄の箱で喜んでました」


なんだそれ、わからない。

杏花は何でも喜ぶだろうから、値段で選べばいいのに。

何年か前にこういうのもらったなぁとか考えれば考えるほど、何を選んでいいかわからなくなる。


「優ちゃんは?」

「うーん、何でも嬉しいですね。相手がどういう風に思って選んでくれたかなって、結構わかるんですよ」

「そういうもん?」

「だから助言はしません」

「逃げたね」

「ふふ、そうとも言います。その子のこと一番知ってるの和也さんですし」

「まぁそうだけどさぁ」


そう言いつつ、優ちゃんは一緒に見て回ってくれた。

杏花の好きないちごのチョコを見つけて、見た目も可愛いしそれにした。


「優ちゃんありがとー。おかげであいつに怒られないで済むわ」


ごった返しているデパートを出て、オレは優ちゃんにお礼を言った。

その優ちゃんは両手にチョコの入った袋を持っている。家の近くまで送ろうと申し出ると丁重に断られた。


「でも意外です」

「何が?」

「和也さんこういうの無難なのサクッと選ぶイメージでした」


そのイメージはほぼ当たり。買う物はほとんど決めてから行く派だ。


「その女の子のこと、大好きなんですね」


素なのか、意地悪のつもりなのか。

率直に言われて、オレは戸惑った。


自分のこと以外は察しのいい優ちゃんのことだ。

何となく近所の女の子との仲の良さやなんかは感じてたんだろう。



◇◆◇



「優ちゃんだ、久しぶりー。」


駅前を歩いていると、見知った顔を見つけた。


「お久しぶりです」

「健太郎待ち?」

「そうですよ」

「あ、健太郎、研究忙しそうにしてるけど、最近あんま遊べてなかったり?」

「そんな…まあ、バイトで一緒に帰ったりしてますし」


最近健太郎が忙しくしてたから、なかなか優ちゃんと時間取れないてないんだろうな。


「『研究とアタシどっちが大事なのよ!?』って言わないの?」

「あはは、それは嫌な女ですねぇ」


冗談めかして言えば、困り顔の優ちゃん。


「優ちゃんなら寧ろ喜ぶよ。ベタ惚れだかんねぇ、あの健太郎が!」

「べっ」

「流石に自覚したでしょ?前は健太郎の気持ちも気付かないフリって感じだったもんね」

「そ…その節はお世話になりまして…」


段々顔が赤くなって行く。

うーん、健太郎が独り占めしたいのもわかるなぁ。

普段クールなのにこんな反応されたらなぁ。


「わっ」

「ひっ!?」

「お待たせ。和也といたの」


そっと後ろから現れた健太郎に優ちゃんはすごく驚いていた。

仲が良さそうで何より。


「バイバーイ」

「和也さん、待つの付き合っててくれてありがとうございました」

「鬼の居ぬ間に優ちゃんと話せてラッキー」


和也と何話してたの、ナイショ!なんて珍しく少し不機嫌そうにしている健太郎が面白くて、手を繋いで歩く2人の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。



◇◆◇



「つーか、何でそんなタイミングよく見かけるかな。あの子数えるほどしか会ったことないのに。バレンタインも店に一緒にいてもらっただけでオレ選んだし、向こうもたくさんチョコ買ってたし」

「うそ…」

「健太郎の片想いの時から知ってんの。だからちょっとからかったんだよ。友達の彼女に手を出す趣味ねぇし、消すまでもなく優ちゃんは連絡先も知らない。」


ポカンと、口をあけて話を聞いていた杏花の手は、いつの間にか逃げようとはしなくなっていた。


「それで?オレが好きなのは杏花だけど」


杏花は顔を赤くして、目を潤ませる。




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