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◇揺さぶられる

槙野先輩からはすぐに返信がきて、待ち合わせも決まった。


最近学食には行っていない。

大学が一緒でも、学年も学部の違えば、和也くんに会うこともあんまりない。


何着てでかけようかな。

ちょっとおしゃれしちゃおうかな。

大会見に行くだけだし、あんまり気合い入れすぎたらおかしい?

でもちょっとくらい可愛い服着てもいいよね。

部活漬けで、こういう機会でもないとおしゃれしないもん。


クローゼットの服をいろいろ引っ張り出しては合わせてみるのも、なかなか楽しい。


「うんうん、楽しい。いいじゃん。こういうの」


和也くんと出かけるときだって、お気に入りの服選んだり、アクセサリーどうしようとか考えてた。

でも、寝起きも髪ボサボサもパジャマも見られちゃってるから、今更感があってこうは行かない。


「む」


スマホが震えたと思ったら、和也くんから、絵文字一つもないメッセージ。


『ケーキある』


これだ。


「む。水差さないでよね」


『いらない』と返せば、即座に『杏花が好きなタルト』と、的確な返し。


返信しないでいると、『チーズケーキもある』と追い討ち。

『いらない』と返信する。

もう、和也くんの家にも行かない。


のに。


コンコンとドアが叩かれて、お母さんかと思えば立っていたのは和也くんで。


「い、いらないって…」

「うん、残っても困るし」


お母さんもお父さんも当たり前のように和也くんを通す。

これが「彼氏が遊びに来た」だったら、こうは行かないんだろうなと思うと、和也くんの信頼はすごい。


ほい、と渡されたのは好きなケーキ屋さんの箱。

フルーツがたくさん乗ったタルトと、レアチーズケーキが入っている。

う。どっちも好き。


「好きなだけ食っていいよ」


う。


「…わざわざ買ってきたのこれ」

「元気なさそうだったから」


誰のせいだと思っているんだろう。


「なに、デートでもすんの」


和也くんはベッドに並んだ服を見て訊いた。


「そ、そうだよ。部活の先輩とデートするの」

「…ふーん、どんな奴?」


そんな、不機嫌そうに言われる筋合いはない。


「か、和也くんには関係ないもん。」

「あるよ、オレ杏花の保護者だし」

「和也くんはわたしの保護者じゃない!」


わたしにとって、和也くんは保護者じゃない。

和也くんにとったら、わたしが妹みたいなもんだとしても。


「着替えるから!」

「は?ちょ」


ぎゅうぎゅうと和也くんの背中を押して、わたしは和也くんを追い出してドアと鍵を閉めた。


「帰って」


そう言えば、足音が遠ざかっていった。


リビングでお母さんとお父さんと話しているのか、遠くで笑い声が聞こえた。


「ふーんだ」


テーブルに置きっぱなしのケーキたち。

追いかけて返しに行くのもおかしいし、ケーキに罪はないしと言い訳しながら、付いていたフォークでタルトを食べる。


大好きないちごタルトなはずなのに、ちょっとしょっぱかった。




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