◇見せつけられる
でもね、女の勘って、案外ほんとにあるのかもしれない。
いや、わたしの場合はきっと和也くん限定だから、幼馴染の勘って言うのが正しいのかな。
部活帰り。
マネージャーは走らないけど、もうむしむし暑くて、部活が終わる頃には汗にまみれてドロドロだ。
早くシャワー浴びたいなあと、最寄駅を歩いていたら、見かけてしまったのだ。
和也くんが“あの人”といるのを。
見間違えるわけがなかった。
穏やかに笑う、透明感のあるショートボブの女の人。
“あの人”と、話している和也くん。
和也くんが連れているコロコロ変わる彼女とは全然違う。
和也くんが楽しそうに、からかうように笑う。
あんなに楽しそうに笑うことあるんだなって、どこか冷静に見ていた。
だって、そんな楽しそうな和也くんなんて、知らない。
わたしといるときは、ずっと気だるそうで、笑うときもあんな楽しそうに笑わない。
だって、もっとめんどくさそうで。まるで仕方なく相手してくれてるみたいな。
知らない和也くんなんて、たくさんいるって、知っていたはずなのに。
からかうと、照れたように赤くなる“彼女”。
和也くんは楽しそうにお腹を抱えた。
後から現れた健太郎くんがその“彼女”の肩に手を回して、ちょっと不機嫌そうで。
彼女の手を取って、健太郎くんと2人で仲良く歩いていく。
ああ、あの人は、健太郎くんの彼女だったのか。
その後ろ姿を見送る和也くんの表情は、なんだか切なげで。
うん、そっか。
なんでその可能性に思い至らなかったんだろう。
「あれ、杏花?今帰り?」
立ち尽くしていたわたしを見つけた和也くんは、いつものテンションで話しかけてきた。
「どした」
わたしを見下ろす和也くんの表情は、傷ついたり凹んだりしているようには見えないけど。
「和也くんってさあ」
好きな人いるんだね、とは聞けなくて、わたしは首を振った。
「友達、待ってるの」
嘘をついた。
一緒に帰る気にはならなくて。
「そお。先帰るよ」
「うん」
「気をつけて帰ってこいよ。もう暗いから」
子どもにするみたいに、ポンポンと頭を叩かれた。
「…うん」
和也くんが家の方に歩き出したのは見送らずに背中を向けた。
駅のベンチに座って、ポンポンと撫でらた髪に触れてみる。
あんな女ったらし。
ちゃんと振ってもらって、スッキリしようと思ってたけど、告白して返事もないなんて、振られたようなものじゃない。
わたしの中で、ちゃんと振られたことにしよう。
和也くんはそれを望んでいるから、何もなかったことにしているんだろう。
わたしが連絡しなければ、和也くんからメッセージがくることはあんまりない。
家の近くで遭遇するくらいだ。
大丈夫。
「忘れよう」
わたしは、スマホを取り出して、槙野先輩にメッセージを送った。
『さっき言っていた来週末の大会、一緒に行きましょう』って。