◇見つけてくれた
食器を片付けに行くと、遠くに和也くんが見えた。
友達と何人かで楽しそうにしている。
中には女の人もいて。
綺麗な女の人。いつも連れてるのはあんな、垢抜けた髪の長い人だ。
ああでも。
一人だけ、違う雰囲気の人、いたな。
今年のバレンタインの頃だっけ。
わたしの受験真っ只中の。
◇◆◇
毎年恒例のバレンタインデーとホワイトデーのお菓子のやりとりは、準備をする前にストップをかけられてしまった。
「言っとくけど、バレンタインのチョコなんか準備しよーとすんなよ、受験生。」
「でも」
疎遠だった時期でも、毎年ちゃんと選んでチョコを贈っていたというのに。
しゅんとしていると思ってもない提案が降って来た。
「あーあれだ、逆チョコってやつでいいじゃん。流行ってるやつ。」
「逆チョコ?」
「バレンタインはオレがチョコあげて、ホワイトデーに杏花がなんかくれりゃいいよ。ホワイトデーなら受験終わってんじゃん」
「そうだけど!」
「ただでさえ偏差値ギリギリなんだからさぁ、1分1秒でも勉強しなさい。」
「ギリギリだけど!」
「同じ学校通えんの楽しみにしてんだけど」
「う」
流石は和也くん。
わたしの扱いがよくわかってる。
そんな会話をしたあとに、予備校帰りに見かけた、女の人。
いつも和也くんが連れてる派手で綺麗な女の人とは全然違う。
ショートボブで透明感のある、笑顔が似合う、優しそうな人。
毎回連れてる女の人が違うし、悔しいから、和也くんの彼女の顔は覚えてないけど、その人だけはよく覚えていた。
和也くんは、いつものよそ行きの澄ました顔じゃなくて、わたしに見せる気だるそうな顔でもなくて。
照れたような、困ったような顔で慌てていたから。
そんな顔するんだなって。
もしかしてその女の人のこと、って考えかけて、首を振って、さっき覚えた英単語をぶつぶつ言ってみた。
◇◆◇
食器を下げて、学食のおばちゃんにごちそうさまを言った。
わたしはこうやって、すぐに和也くんを見つけるのに、和也くんはそうじゃないんだろうなぁ。
どこにいても見つけて、ご主人様を見つけた仔犬みたいにかけて行ってじゃれるのに。
和也くんには和也くんの世界があって、わたしみたいなガキの子守りをしているより、同世代と話してる方が楽しいんだろうなぁ。
「ーーーっ!?」
そんな恨めしい気持ちで、和也くんたちを見ていたら、和也くんが顔を上げて目が合った。
ヒラヒラを手を振る和也くん。
手を振り返しながら、心臓がドキドキうるさい。
何もなかったかのように、和也くんは友達との会話に戻って行った。
すぐに凹む。すぐに舞い上がる。
ちゃんと和也くん以外の人を見ようと、決心したばっかりなのに。