ロボットひー君
ひだまり童話館「ぬくぬくな話」参加作品です。
僕はロボットのひー君。
はるひこ君の四歳のお誕生日にこの家に来た。はるひこ君の「ひ」をとって「ひー君」と名付けられた。
はるひこ君は僕とたくさん遊んだ。僕は力持ちだから、はるひこ君を持ち上げたり背中に乗せてあげることもできる。だからはるひこ君は僕のことをとても気に入ってくれた。
お母さんが「ご飯よ」って呼んでも「ひー君と遊んでるからあーとーで」って言うこともあったし、ちゃぶ台のお隣りに座らせてくれることもあった。
僕とはるひこ君はとっても仲良しだった。
でも、はるひこ君はどんどん大きくなった。
小学校に入ってしばらくは、お家にお友達が来ると僕と一緒に遊んだけれど、高学年になるとお家で遊ばなくなった。お外でサッカーをするんだってさ。
でも家に帰って来ると「ひー君、腕相撲しようか」って遊んでくれた。学校の宿題を手伝うこともあった。僕は「ウー」しか喋れないけど、ちょっと勉強はできるんだ。だから、はるひこ君の宿題、特に算数の計算とかを手伝ったりした。
僕とはるひこ君はとってもとっても仲良しだった。
でも、はるひこ君はどんどん大きくなった。
中学校に入ると、部活動で忙しくなって、僕とは遊ばなくなった。勉強も、もう僕には全然わからないことばっかりになっちゃった。
そのころから、ちょっと僕は調子が悪くなった。だんだん重い物が持てなくなったし、段差の上り下りが苦手になってきた。
「もう古いからな」
パパさんが言うと、ママさんが「そんなことないわよ。まだまだお手伝いしてくれるわよね?」って言ってくれた。
それからはママさんのお手伝い、お庭の手入れをするようになった。雑草を抜いたり伸びすぎた枝を切ったりする。あと、毎日水やりもする。
そうするとママさんは「助かるわ」と言って喜んでくれる。
良かった。
僕、まだ役に立ってた。
僕はお庭に出るようになったから足が汚れた。だからお部屋には入らなくなった。縁側の端っこに僕のために板を置いてくれて、僕はいつもそこに居るようになった。
居間からはパパさんママさんはるひこ君の楽しそうなお喋りの声が聞こえる。
今まで、僕はあそこにいたのに、足が汚れてるから部屋に入れなくなっちゃった。でも良いんだ。僕はロボットだから。役に立てるならそれでいいんだ。
そんなある日、はるひこ君が高校生になった時、家に猫がやって来た。まだ子どもでふわふわしている三毛猫だ。
「猫のこーちゃんよ。ひー君、仲良くしてね」
「ウー」
ママさんに子猫を紹介されて、僕は挨拶したけど、猫はあんまり僕のことを気に入らなかったみたい。何も言わずに部屋に入ってしまった。
猫はみんなに可愛がられていて、ご飯の時間にはるひこ君のそばに座っていた。はるひこ君が猫を撫でているのを見ると、なんだか胸の回路がグルグルするような感じがした。
いいな。僕もはるひこ君に撫でてもらいたい。
でも、僕はロボットだ。硬くて四角くて、頭にピョンってアンテナがある。こんな頭をはるひこ君が撫でるはずがないよね。
僕は毎日、お庭に出て水やりや草むしりをした。
ママさんが「助かるわ」と言ってくれる。水の入ったジョウロは重いけど、僕は力持ちだから大丈夫。
でも時々、重すぎて持てない時もあるけど。
まだ足が動くから役に立つはずだ。
晴れてる日、僕はせっせと水やりをする。
縁側を見ると、猫が座布団の上に丸くなって昼寝をしている。猫は寝てばっかりだ。はるひこ君と遊んだり、ママさんのお手伝いをしないのかな。
そう思って猫を見ていると、部屋の中からパパさんの声がした。
「縁側でぬくぬくしている猫っていうのはいいねえ」
「そうね。癒されるわね」
パパさんとママさんは、猫を見て“癒され”てるらしい。
そうか。猫は寝てるだけでも役に立ってるのか。
でも僕は無理だ。僕の身体は四角くて硬いし、まん丸の目は閉じない。だから僕が縁側の板の上に座っていても誰かを癒すことはできない。
古くなった僕にできるのは、お庭の草むしりと水やりだけだ。明日も頑張るぞ。
僕は庭に出てジョウロに水を入れる。
それからそれを持ち上げる。
だけど水はすごく重い。今までは軽々と運んでいたのに、なんだか最近全然持ち上がらあない。
「ウー・・・ウー」
よいしょ、よいしょ。
やっと胸の高さまで持ち上げられた。そしたら、後ろを向いて、それから木と草に水をやらなきゃ。
よいしょ、よいしょ。
重いなあ。足が動かないし、水がこぼれちゃってる。
「ウー、ウ?」
気が付くと、僕の前にはるひこ君が立っていた。
「ひー君、ご苦労様」
はるひこ君は僕の腕からジョウロを取ると、それを水道の下に置いてしまった。僕まだ水やりやってないんだけど。
それからはるひこ君は僕の脇の下に手を入れて、僕を持ち上げた。
この家に来たばかりのころは、僕のほうがはるひこ君より大きかったのに、今でははるひこ君のほうがずっと大きい。
軽々と持ち上げられて、そのまま縁側に運ばれた。
縁側の、僕の板の横には空色の座布団が置いてあった。
「こら、こーちゃん、そこはひー君の席」
猫が空色の座布団に乗ろうとしているのを、はるひこ君がどかして、それからその座布団に僕を座らせてくれた。
「今日からここがひー君の席だよ」
僕の席?
板の上じゃないの?
はるひこ君はにこにこしながら僕に教えてくれた。
「ここからお庭を見張って、悪いヤツが来たら教えてくれる?」
見張り?任せてよ。
僕は頭の上の赤い回転灯を一回ピカりと回して見せた。
「頼んだよ」
「ウー」
はるひこ君が僕に新しい仕事をくれた。
僕は毎日座布団に座って、お庭を見張る。
今のところ悪いヤツは入ってこない。きっと、ロボットが見張ってるから怖いんだな。
「縁側でぬくぬくしているロボットっていうのも良いわねえ」
「ね、和むでしょ?」
「ひー君の色の座布団っていうのがまた良いね」
パパさんもママさんもはるひこ君も、僕が見張ってるから安心してお喋りしていてね。
僕、お仕事頑張るよ!