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エチカ 『瀬原集落聞書』  作者: 櫨山奈績
第三章 平成五年
36/43

言霊

 二階の夫婦の部屋に置いてあるベビーベッドの前で、紅子は、泣いている飛鳥を抱いてくれていた。


 燐子は、紅子に礼を言って飛鳥を抱き、夫婦のダブルベッドに腰掛けて、授乳を始めた。


 紅子は、燐子の傍らに立った(まま)、ボンヤリと飛鳥を見詰めていたが、やがて、悲しそうな声で言った。


「ごめんなさいね、私ったら、御客様方に御茶も御出ししないで」

「…いや…御茶を飲む様な雰囲気でも無かったですし。何なら、あたしが煎れますよ」

「いえ、床上げも済んでいない人に、そんな…。本当なら一月(ひとつき)は寝かせてあげたいのに」


「じゃ、今、御茶だけ煎れてくださったら、後は、此の子を此処で見ていてくださったら助かります。誓って、御茶を配るくらいしか動きませんから。ね?」


 分かったわ、と言って、紅子は、部屋を出て行き、燐子が飛鳥に授乳後の曖気(げっぷ)をさせている頃には戻って来た。

 燐子が飛鳥を抱かせると、紅子は、ホッとした表情で、そっと飛鳥を抱き締めた。


 燐子は、不安を紛らわす為に、伊蔵と華織の位牌が入った、本棚の中の厨子を見詰めた。

 授乳に明け暮れていると、振り返る事が少なくなってきている、血縁の(よすが)だったが、燐子は、今日は不安で、伊蔵に頼りたい気分だった。




 燐子が仏間に戻ると、成子と向子は着替えに出たのか其の場には居らず、御茶は既に配られ済みで、岐顕は、周囲と談笑しながら試験勉強をしていた。


 玖一までもが、全員に交じって御茶を飲みながら、笑っている。凄い、と燐子は思った。


―此の切り替えの速さと、明るさと図太さは、絶対遺伝よ。あたしなら、あんな会話の後、試験勉強どころか、此処で笑えないもの。紅子さんの反応の方が真っ当な気がする。


 燐子が椅子に座ると、ほら、と言って玖一が、岐顕の教科書を見せて来た。


「懐かしいだろ、スピノザだよ」

 燐子が、え?と言うと、渾名らしいですね、と言って岐顕が微笑んだ。

「理系には思い付かない渾名ですね。倫理(エチカ)って」


 ああ、其の話か、と思い、燐子も微笑んで頷いた。

 何だか、何処かで聞いた様な台詞だ、と思いながら。


 理系選択するの?と玖一が教師らしく、親しげに尋ねると、岐顕は笑顔で、はい、と言った。


「二年生で理系選択しようと思って。暗記減らしたいなー。日本史と世界史は分量多くて参りますよ。倫理と地理だったら、地理かなぁ」


 顕彦が、良いじゃねぇか、と言った。

(みち)、御前、成績は良いんだからよ。別に、其処まで細かく気にしなくても」


「だって、今度のテスト、一日目は暗記科目固めてあるんだよ?もうちょいバラけてくれても良いのにさ。暗記科目は別に俺、普通だもん。不得意でも無いけどさ。其れこそ令一の方が暗記は得意じゃん」


「県で一番の公立進学校に通ってるらしいよ、凄いね」

 笑顔で、そう言ってくる玖一に、其れ程良い学生では無かった燐子は、此れまた曖昧に微笑んで頷いた。


 岐顕は、えへへ、と笑って言った。

「来年、(はる)の奴が同じ高校に来ると思うんで。待っててやんなきゃ。一緒に理系選択するんです」

「親友なんだっけ、良いねぇ」


 恐らく良い学生なのであろう岐顕と、高校の数学教師の玖一は話が合う様だと思いながら、燐子は其の様子を微笑ましく見遣った。


「…令一も頭良いし、(おさ)じゃなかったら、高校行きたかっただろうと思うんですけどね」


 少し寂しそうに、そう言う岐顕に、そうなんだ、と意外そうに玖一は言った。


「里には学校は無いの?隠れ里ったって、戸籍も有るみたいだし、義務教育も必要でしょう?其の辺りは如何(どう)なっているの?」


「ああ、中学校までは集落内に在ります。…学校法人の私立校扱いになるのかな?高校以上に行きたかったら、里の外の学校に通わないといけないから、(おさ)の許可が要るんです。一応隠れ里って事になってるんで、実方家で、瀬原集落の人間の為の病院を経営したり、ちゃんと認可を受けて学校経営したりして、なるべく集落内で(まかな)える様にはしてるんですが。隠れ里の状態を維持出来る様に、外界との関わりを最小限に出来る仕組みを集落内に作ってる、って考えると、可笑しな話なんですけど。集落内の(ごみ)処理業専業の家も在ります。其処も、市と連携を取ってくれていますよ」


 だから綜一の尋常小学校の担任が顕彦だったのか、と燐子は思った。


 そうだ、と岐顕は言った。

「俺そっくりな親戚ってのも、医師なんですよ。ねぇ、彦じぃ。(たつ)じぃも上京してるんじゃないの?」

「ああ、(のり)(あき)と一緒に中野の病院の視察に行かせてるぞ。…俺の目の黒いうちは鹿児島には入れんわ。今のところ鹿児島には支部は無いが」


 顕彦の言葉に、ああ、あの病院、と、岐顕は意味有り気に言った。

(けん)おじちゃんも来てるのかぁ。視察ね。そういう事なら俺もマハーポーシャでも寄って帰ろっかな。ホワイトボックスパソコンって興味有るし」


 燐子には意味の分からない言葉だったが、玖一は嬉しそうに言った。

「あそこ、安いらしいよね。俺は自作なんだけど」

 良いですねー、と、岐顕も嬉しそうに言った。

「俺も自作なんですよ。やっぱ秋葉原寄ろう」


 おう、と言って顕彦も笑った。

「豊な(マハーポーシャ)か。(サンスクリット)語か何だか知らんが、向子に何でも買ってもらえ。今回の御駄賃だ」


「え…俺、テスト前に、御祓いの手伝いの為に上京して、(わざ)々、マハーポーシャに四十三歳の大叔母と一緒に行くの…?」


 言ってると俺の頭がおかしいみたいだな、と呟く岐顕に、玖一も燐子も、思わず声を揃えて、四十三?と言ってしまった。


―凄い。あの人、二十代かと思ってた。


 燐子は、随分御綺麗にされていますね、と思わず言った。


 顕彦は笑って言った。

「見掛けは、ああだが。巫女は(とこ)処女(おとめ)が基本だから、嫁にも遣れんし、気の毒なもんで」


 燐子には意味が分からなかったが、玖一は頬を染め、岐顕は、うっ、と言った。


「大叔母が(とこ)(おと)()とか、知りたくなかったな…。巫女だってのも今日知ったけど。だから結婚しなかったのかぁ。俺を育てる為かと思って、悪い事したかな、と思ってたんだけど」


「そう言えば、御母様が亡くなられて、親戚に育てられたとか?」


 玖一が気の毒そうに、そう言うと、岐顕は、はい、と答えた。


「うちの父と大叔母達が協力して育ててくれて。…母は先々代の(おさ)の娘でしたが、体が弱かったとかで。双子の出産は負担だったみたいです。…御産が原因で亡くなって」


 黙って、にこやかに皆の話を聞いていた綜一が、悲壮な顔をしたのを、燐子は見逃さなかった。

 顕彦も、其れを見てから、岐嶷(いこよか)たれ、と言って、岐顕に向かって微笑んだ。


「さ、学生の本分は勉強だ。世界史と日本史だったら勉強見てやるよ。俺は明治四十一年生まれだから、大正なんてのは、自分が生きてきた時代だからな。範囲は何処だ?」


 明治大正は()だ習ってないけど、と岐顕は言った。

「世界史は()(かく)、日本史は習ったところ全体の()()(らい)いって感じ。山を掛け(にく)くて」


 どれどれ、と言って、玖一が、岐顕が手にしている教科書を覗き見た。


「日本史は高一以降取るのやめたけど、普段は出題側なんでね。こういうのは、単元毎(ごと)にポイント絞って作るからなぁ。あ、勅旨(ちょくし)綸旨(りんじ)令旨(りょうじ)の違いを述べよ、なんて如何(どう)?」


「おー、出そう。頼りになるー。以仁王(もちひとおう)令旨(りょうじ)ですね」


 一応文系選択だった燐子は、自分も世界史と日本史選択だった事を知られたら恥を掻きそうなので黙っていた。ものの見事に思い出せないし、習った記憶すらも朧気(おぼろげ)である。


 勅旨と綸旨は天皇しか出せないんでしたっけ、と言いながら、岐顕は教科書の(ページ)を捲った。


 ずっと黙っていた紘一が、スラスラと言った。

「天皇が特定の個人に出す命令書が勅旨(ちょくし)宣旨(せんじ)が天皇の意向を太政官(だいじょうかん)が文章化した命令書で、綸旨(りんじ)は宣旨の手続きを簡略化して蔵人(くろうど)が文章化した命令書。どれも、天皇の命令って覚えると良いよ。綸言(りんげん)(あせ)のごとし、ってね。『此の三つは天皇しか出せない』っていうところがポイント。対して、令旨(りょうじ)は『皇族』の命令なんだ。皇太子、皇太后、皇后、なんかのね。御令息、とか、御令嬢、の『令』って覚えよう」


 おー、と言って、岐顕は拍手した。


「…令一の『令』、かぁ。うん、覚えられそうです。ま、以仁王(もちひとおう)令旨(りょうじ)とか考えると、確かに、親王に過ぎない人が出した命令と言えなくも」


 『令』自体は良い字なんだけどな、と顕彦が言った。


(やまと)(うるは)し、ってな。使いどころで、天皇ではない、偉い人の子供、くらいの意味になっちまってるのがアレなんだが」


 そうですね、と紘一が同意した。

「『令』自体は神の声を(ひざまず)いて聞く人の形を表した漢字ですからね。(こう)()です。『顕』も立派な髪飾りを付けた素晴らしい人、高位の人物を表す字ですよね」


 へぇー、と岐顕は言った。


「令一にはピッタリの字かも。宗教団体の(おさ)だしな。うんうん、覚えられそう」


 あ、と燐子は言った。


「じゅんにん…天皇でしたっけ。淡路が如何(どう)とか、前、聞いた様な」


 淡路廃(あわじはい)(たい)ですね、と岐顕は言った。


「孝謙上皇の被害者って印象ですね。…道鏡事件でしたっけ?孝謙上皇が淳仁天皇を廃位して、重祚(ちょうそ)して自分が称徳天皇になる…あ、此処、テストに出そうだな…」


 藤原仲麻呂の乱かな、と紘一が言った。何だい、と、顕彦が言った。


(こう)、御前、随分、淳仁天皇に拘るな」


 玖一と岐顕が、え?と言った。


 結局よ、と顕彦は言った。

「五年前に起きた、日本の結界が弱まる様な事、っていう事の根拠が、『元号』だって言いたいんだろう?昭和二十七年に国宝認定された、石川(いしかわ)(とし)(たり)墓誌(ぼし)銘文(めいぶん)だな?」


 意味分かんないんだけど、と岐顕は言ったが、紘一は、半分当たっています、と言った。


「其の銘文には、『平成 (のみやに)御宇(あめのしたしらしめしし)天皇(すめらみこと)』と有るんですよ。此れが、淳仁天皇、即ち、淡路廃帝の事なんです」


 玖一と岐顕が、え、と言った。

 燐子には、全く意味が分からなかった。


 元号も諡号(しごう)も、本来重複しない、と、紘一は言った。


「正式な元号ではなかったでしょうが、其の、国宝にまでなった墓誌の銘文を信じるなら、『平成』と称される天皇は、過去に既に存在したのです」


 いや、御前、と顕彦は言った。


「そりゃ、『平城(へいぜい)』の書き損じじゃないのかい。住まった平城京を愛した天皇、くらいの意味じゃないのか?別名、()(らの)(みや)とも呼ばれていた」


 其処が味噌ですよ、と紘一は言った。


「昭和二十七年に、あの碑文が国宝にまでなってしまっては、『平成と称される天皇が過去に居た』かもしれないと思う人間も居る、という事なんです。其れが、真実か否かは関係無い。そして、皆が、今は『平成の時代だ』と口にする。此処は『言霊の国』です。『平成 (のみやに)御宇(あめのしたしらしめしし)天皇(すめらみこと)』の時代だ、と。そうなると、淡路を忘れるわけにはいかない。第一、『平城』も天皇の諡号(しごう)としては、別に存在するのです。『平成』だけが、言葉として浮いている様に、俺には思える。此の言霊の国で、其れは不味いのではないか、と個人的には思うのです」


 成程ねぇ、と顕彦は言った。

「俺は、書き損じは書き損じだと思うから、そういうのは、あんまり信じちゃいないが。御前だって、先刻(さっき)、周に、何でも結び付けて考えるなって言ってたじゃないか。其れで、何かい、淡路廃帝の諡号(しごう)穿(ほじく)り返されたから、淡路に何か起こるって言いたいのかい?」


「そういうわけじゃないですが、淡路は日本の臍です。日本の神話も淡路島から始まるとも言われている。日本の中心の(くびき)が弱った様に、俺には思える。…此の言霊の国で、こういう事には、意味が何も無いと思う方が危険ではないですか?きちんと考えておかないと、また元号が変わって五年したら、米が危なくなるかもしれない」


 ああ、そうか、元号、と紘一は言って、燐子の方を見た。


「…君、あの時の御嬢さんだったんだね。御祖父様は、あの後亡くなられたとか。いや、御縁が有ったねぇ」


 知り合いだったの?と、綜一が不思議そうに言った。


 まぁね、と紘一は言った。


「此の前、弁護士の村野さんから話を聞いて思い出したんだ。改元の日に此処に来る途中、一緒にタクシーに乗り合わせたのさ。其の時に不動産屋と弁護士を紹介した、というわけ。ほら、あの時の焼芋をくれた人の御孫さんだよ」


 うわ、と綜一は言った。

「今じゃ、うちの息子の御嫁さんだもんねぇ、孫まで生まれて。御縁が有ったねぇ」


 玖一と燐子は気不味く見詰め合った。


―うん、そうなのよね。此処まで縁が有ると不気味なのよ。…運命だ、ロマンチックだ、って思う性格じゃないからなのかな。そんな事関係無しに好きになった筈なのに。


 気不味さを紛らわす為に、燐子は余計な事を言ってしまった。


「えっと、其の、生前、退位した、って事でしたっけ」


 譲位(じょうい)ですね、と、岐顕が言い(にく)そうに言った。


「テストで生前退位とか書いたら多分、点数貰えないな…。退位(たいい)、は一応、君主が地位を手放す事、ですけど。退位は生前にするのが当たり前なんで…。『頭痛が痛い』、みたいな重複表現って言うか」


 (えら)く遠回しに『日本語が変』と言われた気がして、燐子は、しまった、と思った。


「あ、や、まぁ、重祚(ちょうそ)だし、資格の無い人物に簒奪(さんだつ)されたって事でも無いとは思うんで…。孝謙上皇に譲位させられた、って形なのかな。…あ、退位(たいい)譲位(じょうい)禅譲(ぜんじょう)受禅(じゅぜん)の違いはテストに出そうかな」


 そんな、燐子の発言のフォローめいた事を言ってくれる年下の岐顕の気遣いに、赤っ恥掻いた、と思い、燐子は真っ赤になって黙った。


 いやぁ、と、顕彦が言った。


「生前に退位『させられた』、というニュアンスでなら、譲位より確かに合っとるよ。(わざ)々、男性の淳仁天皇が在位中なのに、男系の女性天皇とはいえ、押し退けて重祚(ちょうそ)しちまったんだから。男性後継者が存命なのに、発想としては、そっちのがイレギュラーだよ」


 フォローが余計恥ずかしいな、と思い、燐子は益々赤くなった。


 燐子の様子を見た顕彦が、更に、フォローしてくれようとしたらしく、話を()らそうとしてくれた。


「ほ、ほら、(みち)霊元(れいげん)天皇(てんのう)如何(どう)だ?大嘗祭を復活させた。譲位後の期間が長いだろ」


 江戸時代は如何(どう)だろう、と岐顕は気不味そうに言った。


()だ、そんなに習ってないからなぁ。まぁ、霊元天皇ね…。此の頃の天皇家の人にしては目立ってるけど…徳川綱吉の方がテストには出そうかな…。そうだね、二百十九年も大嘗祭が行われなかったんだよね。再開も、随分簡略化されたらしいし。此の時期って、其れ程天皇家って良い思いしてないんだよね。鎌倉、室町、江戸、って、本当に影薄いって言うか…。後鳥羽上皇の倒幕運動も失敗してるし。天皇家が残った事自体が凄いなって、時々思うよ。此れ、皇女と結婚したら天皇になる、っていうシステムにしなかったのが功を奏したよね。そうじゃなきゃ、幕府が変わる度に家が途絶えてたじゃない?」


 そうだね、と紘一が言った。


「今や天皇家の象徴である菊花紋も、鎌倉時代に後鳥羽上皇が、外来種の菊を好んで、菊水紋と一緒に愛用するまでは、皇族の象徴として定着していなかったし。後醍醐天皇は桐紋も使う様になったけど、足利尊氏や毛利元就も菊桐の紋の使用を許して、楠木正成には菊水紋の使用を許しているし。明治になるまでは、本当に、其れ程権威が無い」


 菊は外来種なんですか、と、意外そうに玖一が言うと、そうだよ、と紘一は答えた。


「平安時代くらいに中国から薬用に伝来したらしくて。だから、(きく)は音読みで、訓読みが存在しないんだよ。kuk(クク)、に近い発音だったみたいだね。其れに、江戸時代に品種改良が進むまでは、()だ大輪の花は無かった。小さい白菊だったらしい。明治頃には矢鱈(やたら)と大輪種が好まれるようになったらしいけどね」


 今と印象が随分違いますね、と玖一は言った。


 まぁね、と紘一は言った。


矢鱈(やたら)と騒がれる伊勢神宮の石燈籠の紋もねぇ。昭和三十年に任意団体が建てた灯籠で、伊勢神宮とは関係が無いし。色々と調べると、違う事実が見えてきたりするものさ。菊花紋っぽい、蓮華紋や棗の花がモチーフらしい意匠(デザイン)の紋も存在するしね。結局、菊紋を特別にしたのは、三種の神器が揃わない状態の(まま)即位せざるを得なかった後鳥羽上皇が、自身の作だと証明する為に刀に紋を入れた事が始まりなんだ。其れも、三種の神器のうち、草薙剣だけが、安徳天皇と一緒に関門海峡に沈んで出て来なかったから、権威付けの為だろうし」


 色々と難しい話だよ、などと紘一が言っていると、失礼します、と言う成子の声がして、仏間の襖が開いた。


 廊下に正座した(まま)襖を開けた成子の後ろから、美しい装束を着た、長い垂髪の向子が現れた。

 武内宿祢命子宗我石川宿祢命十世孫三位行左大弁石川石足朝臣長子御史大夫正三位兼行神祇伯年足朝臣当平成 (のみやに)御宇(あめのしたしらしめしし)天皇(すめらみこと)(淳仁天皇)之世天平宝字六年歳次壬寅九月丙子朔乙巳春秋七十有五薨于京宅以十二月乙巳朔壬申葬于摂津国島上郡白髪郷酒垂山墓礼也儀形百代冠蓋千年夜台荒寂松柏含煙鳴呼哀哉


天平宝字(てんぴょうほうじ)六(七六二)年 国宝『石川年足墓誌』銘文

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