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03●イワノフスカヤ村の謎(3)村を焼いたのは本当にイリーナ?

03●イワノフスカヤ村の謎(3):村を焼いたのは、本当にイリーナ?




 第一章のラストで、イワノフスカヤ村は炎上します。(P41)

 主人公の少女セラフィマは故郷を失います。そこから恐るべき地獄の旅路が始まり、狙撃の魔女としての才能を開花してゆくことになります。

 ドラマの重要な転換点ですね。


 が……

 ここで大きな謎が読者の前に立ちはだかります。



 村を焼いたのは誰なのか?



       *


 (^^♪ だーれが焼いたのクックロビン。

 そんなの簡単、イリーナじゃんか。


 いや、確かにそうですよ。

 「焦土作戦開始だ」(P40)と明言してるんですから。

 それに続いて、客観的な事実として、イリーナが実施する“焦土作戦”の様子が描写されています。


 しかしここで、待った!


 イリーナ、燃やしていいのか?


 というのは、先立つP23の14行目からP24の4行目にかけて、村の「疎開はないと決まった」ことが説明され、要するに“イワノフスカヤ村は焦土作戦の対象外である”ことが、当局によって定められたことがわかるからです。


 ソ連軍の当局が“焦土作戦の対象外”と定めた以上、そこに許しもなく勝手に火をかけるのは、タダの放火魔。

 イリーナの行為は戦争犯罪に等しいですし、当局の命に背いているのですから、これまたタダでは済みませんね。逮捕、処刑の対象となるでしょう。


 第一章を読み終えて、この疑問が、くっきりと残りました。


 どういうことだろう?


 そして、かなりずーっと読み進めて、P445の9行目で、“じつは、他に正当な理由があった”ことが、セラフィマの想いの中に語られます。


 そ、そうか……そういうことだったのか?


 物語のほぼフィナーレで、ようやく疑問が解消されることになるのですが……


 にしてもイリーナ、とんでもない放火魔ぶりです。

 P38では、木造家屋の室内でガソリンをまいて、マッチで着火しております。

 これは危ない! 

 大阪のあのクリニック放火事件は、私たちの記憶に新しいところですね。

 ガソリンの携行缶を持ってくるよう命じられた赤軍兵士が、しばしためらった理由にも納得です。

 しかも着火後、その室内でセラフィマとしばらく対話する大胆さ。(P38-39)

 熱いぞ、ヤケドするぞ!

 あまりの命知らずぶり、常人ではありません。

 トンデモな発想ですが、イリーナって、本当に魔女ではないのかと。

 火焔に対する超人的な耐性と、防火魔力を備えた、モノホンの魔女??


 ま、それはともかく。


       *


 原点に戻って、謎に向き合ってみましょう。


 そもそもイリーナの部隊は、何しにこの村へ来たのでしょうか?


 たまたまドイツ軍のトラックを発見して、追跡してきた、と見えますが……

 それならば、

「トラックに分乗し、そのうちの一台にセラフィマも乗せられた」(P41の1行目)とありますので、複数のトラックで追いかけてきたことになります。

 しかし、ドイツ兵が村人を集めて尋問する場面でも、それ以降でも、イリーナ部隊のトラックのエンジン音は聴こえません。聞こえたら、ドイツ兵は大慌てです。

 ということは、ドイツ兵たちがトラックを停める前にイリーナ部隊は村はずれあたりにトラックを隠して、ソ連兵を率いて徒歩で村に進入、ドイツ兵のトラックを包囲して狙える位置に展開したものと思われます。

 ということなら……

 ドイツ兵が村人を順番に殺し、家屋内で婦女暴行に及ぶ寸前か、その途中あたりで、イリーナ部隊はドイツ兵を襲撃、ドイツ兵のトラックも取り逃がすことなく破壊するか鹵獲ろかくできたことでしょう。

 したがって、セラフィマの母も無事で済んだと思われます。


 しかし実際は、何らかの理由でそれができず、ドイツ軍のトラックを取り逃がしてしまいました。

 イリーナ、ちょんぼ?


 それはともかく……


 イリーナ部隊は複数のトラックにガソリンをふんだんに積載し、そして……

 「焦土作戦開始だ」(P40)と命じられた兵士たちはテキパキと動きます。

 そうです。イリーナはもともと、村を焼き払う目的で、ここへやって来たのです。

 先客にドイツ兵がいたことは想定外だったのでしょう。


       *


 そこで、例の仮説です。

 “イワノフスカヤ村はモスクワから200キロあまり西にある”とし、

 “現在は1942年2月でなく、半年前の1941年夏である”と設定を変更すれば……


 イリーナ部隊の行動は納得できます。

 西から迫りくるドイツ軍に、間もなくここは占領される。

 だから、焦土作戦を実施。

 その実行部隊として、イリーナたちは行動していたのです。

 村を焼き、生存者のセラフィマを連れて、東へと撤収していった……


 それが『同志少女よ、敵を撃て』の第一章の、《《ひとつの》》真相ではないでしょうか。


 ところが何らかの理由で、物語の時制の設定を“1942年2月”にしなくてはならなくなりました。

 しかしそうすると、半年後のお話となり、その時点ではドイツ軍の進撃は止まってしまい、むしろ押し戻されています。

 とすると……

 村が半年前に焼かれることなく、“1942年2月”までそのまま生き残った理由が、必要となります。

 そこで“焦土作戦の対象から外れた”ことを説明する、P23の14行目からP24の4行目にかけての文章が追加されたのではないでしょうか。

 しかしそこで“焦土作戦の対象から外れた”ことを明記してしまったので、イリーナの“焦土作戦”は違法な独断専行になってしまい、矛盾します。

 その正当性を説明するために、P445の9行目で、“じつは、他に正当な理由があった”ことが、さらに追加されたのではないかと、そう推察いたします。


 “焦土作戦”の謎は、やはり、もともと“1941年の夏を想定して書かれた原稿”を1942年2月バージョンに書き直す過程で生じた、いわば“物語設定のねじれ”ともいうべき現象ではないかと思うのです。


       *


 しかしながら……

 “焦土作戦の謎”はこれで終わりません。

 じつに奥が深い。

 皆さんおわかりですね。


 村を焼いた放火犯には、別な真犯人がいることを……

 “焦土作戦の謎”の、《《もうひとつの》》真相です。



 詳しくは次章で。





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