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プロローグ〜暑き冬の日に〜
火の粉が雨のように降る夜。
少女は炭火のような男と出会った。
その肌は村を焼く火に照らされ火傷の跡のように赤い。男の赤い手が少女へと差し伸べられる。
「生きたいか」
パチパチと火に巻かれた家屋の柱が弾け、地響きと共に家が崩れる。
そんな中、男の声は静かに、しかし、周囲の音を圧するように響く。
少女は男の手と燃え盛る故郷とを見比べた。そして、目元をぐっと拭うと 黙したままその手をとる。
「そうか」
呟くと、男はこともなげに少女を自分の元へと引き寄せ、そのまま容易く背負いあげた。
「掴まっていろ」
言うが早いか、男は駆け出した。
ぐんぐんと景色が流れ、舐めるように肌を焼いていた空気は、冷たい冬の夜のものへと変わる。
先ほどまでの狂おしい程の熱はもうそこにはない。しかし、自分の胸の内で何か熱いものがくすぶるのを少女は感じた。
これはいったい何なのか、そんな疑問を持ちながらも少女は夜気にブルリと体を震わすと、暖かな男の背で縮こまり、そのまま眠ってしまった。