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ダンスの試練

 暖かくなってきた今日この頃。


「1、2、3。1、2、3。1、2…痛!」

「ごめん!」

「大丈夫…。大分様になってはきているよ」


 私は今、最大の難関に挑んでいた。

 そう。唯一苦手とする…社交ダンスだ!

 盆踊りだったら誰にも負けない自信があるのに。

 さらに最悪な事に礼法の先生に歴史の教科書を出しっぱなしにしていた事と無断欠席した事を根に持たれており目を付けられている。

 確かにマナーを学ぶ時間に最大のマナー違反ではあるけれど…。

 よりによって礼法の授業時間ばかりにトラブルが起きるとか。


「ちょっと休憩させて!」


 地面に座ると眠っていたキャットが膝の上に乗っかって来た。


「キャット助けてぇ」


 キャットに抱きつくとビックリしたキャットが腕からすり抜けて逃げて行った。


「キャットに見捨てられた…」


 肩を落とす私にジルベールが苦笑いを浮かべた。


「試験はもうすぐだけど俺と組めば平均点は取れると思うから大丈夫だよ」


 ジルベールの言葉に固まった。

 そう、パートナーの事を全く考えていなかったのだ。

 だって授業はレベルを見て先生が相手を決めていたから考える必要がなかったからだ。

 でもそうか…相手を誘うのも試験の内だから相手がいないと減点される恐れもある。

 ダンスの試験があると聞いてからジルベールが練習に付き合ってくれていたから忘れていたけど…私、皆の前でジルベールと踊るの?


「俺と組むのは…嫌?」


 不安気にジルベールが見つめてきた。

 嫌ではない。

 ジルベールのダンスはド下手な私をリード出来る程上手く、私にとっては有難い申し出だ。

 だけど、他の生徒の前で踊るとなると…。

 考え込む私にジルベールが畳みかけてきた。


「サラが不安に思う気持ちは分かるけど、結局誰かとは組まなければいけないなら俺と組むのが一番いいんじゃないかな。俺はサラが足を踏むって知っているしそれを手助けしてあげることも出来る。でも他の令息を探すとなると最初から呼吸を合わせなければいけなくなるから大変だよ。それに補習なんてことになれば相手は先生か同じ補習になった生徒と組むことになるから…」

「分かった!分かったから…」


 大きく溜息を吐いた。

 人目<平均点=補習という名の地獄の特訓の免除。

 私の頭の中に数式が完成した。


「ジルベール様はそれでいいの?」

「嫌なら最初から誘わないよ」


 手を差し出して来た。

 休憩は終わりですか。

 手を取って立ち上がらせてもらいダンスの構えをとった。


「それと…ジルでいいよ」


 一歩目からジルベールの足を踏んだのは仕方がないと思う。



 段々試験の日が近付いてくるにつれ教室内は色めき立っていた。

 パートナー探しに皆が夢中になっているからだ。

 その点、パートナーがジルベールに決まっている私は安堵していた。

 だって…教室内を見回した。

 ここぞとばかりに大物を狙う生徒や売れ残りにならないため必死になっている生徒など、男女関係なく目が血走っていた。

 この猛獣達が集う中でのパートナー探しとか…無理!

 かといって最後一人だけ余って先生と…なんてことになりかねず、思わず身震いした。


 獲物を狙う猛獣達が教室内を歩き回っているのを眺めていると左側から声が()()()()()()

 決して盗み聞きではない!


「あの…ジルベール様、今度の礼法の試験ですが私と組んで頂けませんか?」


 胸がドキリと大きく音を立てた。

 確かにジルベールは約束してくれたけど、こんな下手な私と組むよりは上手な他の令嬢と組んだ方がいいに決まっている。

 もしジルベールの気が変わったら…。

 私は教室内の猛獣達に視線を移した。

 無理無理無理無理!

 この中に飛び込んで獲物を探すなんて無理だから!


「悪いけど、相手はもう決まっているから」


 左側から断る声が聞こえてきて今度は違う胸の高鳴りを感じた。

 断られた令嬢はしょんぼりするかと思いきや、次の獲物探しに目を光らせていた。

 怖!


「相手が決まっているなんてジルにしては珍しいな」


 私の警戒心が高まった。


「そうね。ジルなら最後に残った令嬢と踊るって言いそうなのに」


 警戒心がMAXに達した。

 と同時に私の聞き耳もMAXに達した。


「二人とも俺を何だと思ってるんだ…」


 呆れたジルベールの声が聞こえてきた。


「それで。誰と踊るんだ」


 そこ!聞くんじゃない!!


「サラだよ」


 平然と答えるジルベールに肩が跳ねた。


「サラって…ルブイン男爵令嬢…?」


 背中にチリチリと刺さる熱視線を浴びて頭に汗を掻いた。

 頭が焼ける!こっち見るな!!

 これは…振り返って「そうです」とか言うべき?

 いやいやいや…聞き耳立ててたのバレるし。

 しかも今まで話をした事のないイザベラとヘンリーに急に話しかける勇気は私には無い。

 かといってこのまま右だけを向いているのも可笑しいか?

 よし!寝よう!

 私は机に突っ伏した。

 その姿にジルベールがクスリと笑う気配がした。

 そりゃあ急に机に突っ伏したら聞いてましたと言っているのも同然だよね…。


「いつの間に名前で呼ぶ仲になったんだ?」

「それより次の授業始まるぞ」


 ジルベールはヘンリーの問いには答えずはぐらかした。

 授業のベルが鳴り、皆が席に着いた。

 …こっち見ないでもらえますかね。

 授業の間、こいつのどこがいいんだと言わんばかりにヘンリーが私をチラ見してくるのが非常に鬱陶しかった。



 ついに決戦の日を迎えた。


「き…緊張する…」


 ジルベールのエスコートを受けダンスホールへと向かった。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。練習した通りにやれば平均点は取れるから」


 決して高得点が取れると言われないところが自分の下手さを浮き彫りにしていた。

 最強のリード付きで一生懸命頑張って普通って…。

 しかもさっきからクラスの女子の視線が痛い。

 失敗する呪いでもかけているのか?

 絶対失敗してやらないからな!


 ダンスホールに到着すると先生から実際の舞踏会方式で行うと伝えられた。

 実際の舞踏会では格式の高い者やそのパーティーの主役が先陣を切る。

 つまりここでは王太子であるヘンリーと婚約者のイザベラが先に踊り始めてその次に爵位の高い順に…。

 思わずジルベールを見上げてしまった。


「二番手になるね」


 心の中はムンクの『叫び』であった。

 こ、こここここ…心の準備が…。


「大丈夫。俺を信じて」


 ジルベールを信じてもド下手な私が足を引っ張るのは目に見えて明らかなんですけど!

 終わったかもしれない…。

 ガクンと首を項垂れた。

 回りにいた女生徒達はそんな私の姿を嘲笑った。

 こいつら!!


「やってやるわよ!」


 急に意欲を燃やす私にジルベールが微笑み返してくれた。


 イザベラ達のダンスが始まり周囲が感嘆の声を上げた。

 大丈夫。あんなに練習したんだから。

 深呼吸をして顔を上げるとジルベールに手を引かれてホールに進み出た。

 練習通り背筋を伸ばして一歩踏み出した。

 あれ?あれれ?ナニコレ?

 不可思議な光景に呆然となった。

 足がスムーズに動きそれに合わせて体が自然と動いていった。

 そして一度もジルベールの足を踏むことなく試験を終えた。

 どうなってるの??

 見ていた女生徒からは悔しそうな視線を投げかけられた。

 あからさま過ぎて逆に清々しいわ。


「だから大丈夫って言ったでしょ」


 耳元で囁かれてゾクッとして体が震えた。

 耳元で囁くとか反則ですから!

 睨むとジルベールは可笑しそうに笑っていた。



 全員が踊り終え、補習をすることになる生徒が発表された。

 もちろん私はセーフである。


「では一ヶ月後に毎年恒例の学園主催の舞踏会が開かれます。この舞踏会は授業ではないので強制ではありません。ただし…不合格の者は舞踏会までの一ヶ月間、毎日放課後にダンスの練習を行います」


 自分の導き出した数式の答え合わせに安堵した。


 だが果たして本当にこれが正解だったかは『首席がウォーロック公爵令息の弱みを握っている』と言う噂をどう判断するか。

 弱みがあるならいざという時の為に教えて欲しいわ!!





読んで頂きありがとうございます。

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