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誤解を解きたい(ジルベール視点)

「今日は元気がありませんね」


 部屋に戻るとソファーに寝転び腕で顔を隠したまま動かない俺を心配した使用人が声をかけてきた。

 キャットは俺の腹の上で毛繕いに夢中になっていた。


「少し疲れているだけだから大丈夫」


 腕を少しずらして使用人に微笑みかけた。


「王太子殿下がお越しになられておりますが如何致しますか?」


 人に会う気分じゃないのに…どうせ用件は昼間のイザベラだろ。

 俺は重い体を起こした。

 如何致しますかと聞かれても王太子であるヘンリーが来ている以上使用人からは断れない。

 憂鬱ではあったがヘンリーが待つ客間へと向かった。


 客間に行くと項垂れているヘンリーがいた。

 俺も項垂れたいよ。


「今日もまたイザベラに婚約破棄をして欲しいと言われた」


 知ってるよ。

 そのせいでこっちも憂鬱になっているんだから。


「イザベラ一筋なのに何で不安になっていると思う?」


 俺が分かる訳ないだろ。


「本人に聞けよ」

「ジルは相変わらず冷たいな。イザベラ親衛隊の仲間なのに…」


 イザベラ親衛隊って何だ?


「そんなものの仲間になった覚えはないけど」

「お前は俺がイザベラと婚約したからイザベラが好きなのに身を引いたんだろ」


 …は?


「俺はイザベラを異性として見たことはないけど…」

「え?そうなの?俺はてっきり恋心を抱いているが俺には言えないから黙っているのだとばかり…」

「何でそんな話になるんだよ。俺が一度でもイザベラに好意を寄せていた事があったか?」

「いや…噂ではお前がイザベラを好きだって…だから俺には教えてくれないのかと…」


 呆れてしまった。

 王太子ともあろう人間が噂に左右されるとか…頭痛い。

 いや。ちょっと待て。


「今、噂で俺がイザベラを好いているって言ったか!?」

「あ…ああ」


 もしその噂をサラも聞いていたとしたら…。

 そしてサラが言った「心配しなくても私はイザベラには何もしませんから」…俺がサラに何かすると誤解しているとしたら…。

 俺が突然立ち上がったためヘンリーは驚いていたが今はそれどころではない!

 サラの誤解を解かなければ!!



 サラの誤解を解くにしてもサラと話が出来なければ意味がない。

 毎日約束の場所に行ってはいるがサラが来てくれる気配はない。

 さらに最近では授業以外姿を見ない事がほとんどだ。


「ジル、大丈夫?」


 放課後、帰る支度をしながら溜息を吐いているとイザベラが心配そうに話しかけてきた。

 ヘンリーは王宮の用事で今日は不在だ。


「大丈夫だよ。少し疲れているだけだから」


 変な噂が出ている以上、あまりイザベラと人目が付くところで話すのは危険と判断し早々に話しを打ち切ろうとした。


「疲れているならお茶でも飲みに行かない?」


 イザベラは良い案だと言わんばかりの顔をしていた。


「悪いけど…」


 断ろうと思い口を開いてふと思った。

 イザベラにあのサラの言葉を伝えたらどんな反応をするのだろうか?

 チラリとイザベラに視線を移すと不安そうな顔で俺を眺めていた。


「それなら俺が用意するから俺の部屋で飲もうか」


 人目の付くところは避けたかったのもあるがイザベラの反応をじっくり観察したかった事もあり、イザベラを招待する事にした。



 途中まで一緒に帰り一旦別れた。


「イザベラが来るからお茶の用意を。来たら客間にお通しして。それとお茶を飲んでいる間は皆を下がらせておいて」


 着替えながら使用人に指示を出すと使用人達は直ぐに準備に取り掛かった。


「ニャア」


 いつも帰って来ると散歩に出かけていたためキャットは今日も出かけるものと思い擦り寄って来た。


「ごめんな、キャット。なるべく早く終わらせるから。終わったら散歩に行こうな」


 キャットを撫でるとちょうどイザベラが来たとの連絡を受け客間へと向かった。


 客間にはイザベラがお菓子を持って待っていた。


「ジルとお茶なんて久しぶりね」

「学園に通う前はヘンリーと三人でよくお茶をしていたからな」


 といってもほとんどヘンリーとイザベラの二人きりにさせていたが。

 使用人がお茶を入れて下がると一口啜った。


「そういえばまたヘンリーに婚約破棄をしたいと言ったそうだな」


 どう話を切り出そうか迷い、この話題から出してみた。

 イザベラは気まずそうに俯いた。


「別に二人の問題に口を挟むつもりはないけどそこまで頑なに破棄を求めるのは…サラと関係しているのか?」


 サラの名前を出すとイザベラの目が見開かれた。


「サラがイザベラには何もしないと言っていたから…」


 イザベラは視線を逸らした。


「そう…」


 何故彼女がそんなことを言うのか…とは聞かないんだな。

 イザベラはサラの言葉を受け入れているようだった。


「彼女の事…」


 ポツリと口を開いたイザベラは何か考えているようだった。

 イザベラの動向に注視した。


「名前で呼んでいるの」


 え?

 予想外の内容に返事が遅れた。


「あ…うん…」

「そう…」


 えーと…。

 重い空気に耐えきれなくなったところで使用人が入って来た。


「キャット様が落ち着かないようなのですが…」


 散歩に行けず苛立っているのだろう。

 直ぐに行くと伝えようとしたところでイザベラが不思議そうに聞いてきた。


「キャットって猫の事?」


 何でキャットが猫だと分かったんだ?

 俺が驚いた顔でイザベラを見つめるとイザベラは失言したような様子で口を押さえた。


「ごめんなさい。そろそろ帰るね」


 イザベラはそそくさと客間を出ていった。

 そういえばサラもキャットの名にあまり乗り気ではない様子だった。

 キャットという名に何かあるのか?

 俺の疑問は益々深まるのだった。



 サラと話が出来ない日が続いていた。


「昼食を食べに行くか」


 ヘンリーがいつものように声をかけてきた。

 俺達はいつも一般の生徒とは違う場所で食事を摂っているため昼食は大体一緒に行動している。

 廊下を歩いていると通りすがりに他の生徒達の騒ぐ声が聞こえてきた。


「何だか不味い事になりそうよ」

「いよいよ退学かしら」


 生徒達は一般の生徒が使う食堂に向かって足早に歩いていった。


「どうしたんだ、ジル?」


 立ち止まる俺をヘンリーは不思議そうに眺めていた。

 何だか胸騒ぎがする。


「悪い。先に食べてて」


 俺は急いで一般の生徒が使う食堂に向かい無事伯爵を撃退したのだった。



 騒動が落ち着きサラを助ける事が出来た俺は安堵していた。

 サラとイザベラの関係もキャットの名前の秘密もサラが話したくなった時に聞けばいい。

 今はただこの関係をこれからも続けられる事を素直に喜びたい。



 とりあえず目先の問題として授業を無断欠席した理由だけは考えておくか。





読んで頂きありがとうございます。

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