Halloween 2121
西暦2121年10月31日 東京 渋谷 スクランブル交差点
交差点を囲むようにして立ち並ぶ超高層ビル、その側面に埋め込まれたいくつもの巨大ディスプレイ、交差点の中央には円形の360°ディスプレイが浮かぶ。
それら全てでさまざまな企業のcmが流れている。内容は違うものの最後の文言は決まって「私たちはHalloween 2121を応援しています」で締めくくられる。
ハロウィンイベントの勢いは衰えることを知らず、いつしか一年で最も重要な日として扱われるようになり、国民の祝日に定められるほどの地位を確立していた。
そこまでに至った要員の一つに”Halloween King"の存在が挙げられる。その年のハロウィンで最も個性的で周りの人々とは一線を画す表現をした者にその称号は与えられる。
人の多様性がうたわれ、ひとりひとりの個性や価値観が重要視される世の中において”Halloween King"の称号は人々の憧れであり絶大な影響力をもつ。
前回王者はその一年で数多くのcmに出演、書籍を出版、”Halloween King"を題材にした映画に本人役として出演、そしてヒロイン役の女優と結婚に至るなど数々の名声を縦にしていた。
『Trick or Treat』
まさに”Halloween King"のためにこの言葉が存在する。
一夜にして人生に劇的な変化をもたらすハロウィン。この日のために多くの人々が人生をかける。
「Happy Halloween!」
MCの声に呼応して交差点を囲む全ての明かりはいっせいに消える。
夜空を埋め尽くす無数のドローンによって描かれていた立体的な模様がカウントダウンを刻み始める。
3、2、1……ドーン!
カウントダウンが0になると同時に花火が上がり、爆音でEDMが流れ出す。
「Happy Halloween!」その場にいる全員が叫ぶ。
「ついに今年もこの日がやってきた! 最も輝くのは誰だ!」
「さあ始めよう”Halloween King"決定戦!」
「一番手はこの人!」
「とろける甘さだけじゃない、大人にしかわからぬその苦さ。かぼちゃの国の王女様!」
「Entry No.1 かぼちゃぷりんセス!」
その女性は滑らかなオレンジ色のドレスを身にまといカラメル色のベールから透けてのぞくその頭はジャック・オ・ランタンになっていた。
驚くべきことにその頭は整形手術によるもので、中身はそのままに外側は本物のかぼちゃである。まばたきや口の動きは自然で本当にかぼちゃに魂が宿ったようだ。
テクノロジーが発展したこの時代においてこの程度の”仮装”は当たり前である。
次々とさまざまな”仮装”をした人々が登場する。
本物のゾンビのような皮膚に片側だけ飛び出した目玉とリアリティーを追求するために匂いまで腐っている男、身長が3メートル近くあり強化外骨格による強靭な肉体を持つ赤鬼、機械によるコウモリの翼を持ち自由に飛び回るドラキュラ。実に個性的な人々が次々と登場していく。
Halloween 2121は大盛況を博し、日付が変わろうとしていることなど誰も気にも留めない。
交差点周辺だけが現実世界から切り離され、夜の訪れない異世界を人工的に作り出していた。
「いよいよ最後の1人の登場だ!」
「Halloween2121大トリを飾るのはこの男!」
「Entry No.2021 田中!」
男が登場した途端、それまでの人工異世界は時が止まったように静まり返る。
誰1人として声を発することなくただ男を見つめている。
爆音で流れるEDMと上空を旋回するドローンの羽音だけがスクランブル交差点に鳴り響く。
その男の格好はこれまで登場した人々とは明らかにかけ離れたものであった。
黒地に薄く白のストライプが入ったビジネススーツに、一番上までボタンを留めた白のカッターシャツ、グレーのネクタイを締め、黒い革靴、左手にはスマートウォッチ、右手にカバンを持ってただそこに立っている。
珍しいことに体のどこにも整形らしき痕跡は見当たらず強化外骨格も機械の翼すらない。
「さて、これで全ての参加者が出揃った!」
「あとは結果発表を待つのみだ!」
MCの声により人々は声を取り戻し、人工異世界は再び時を刻む。
「さあ、ついに結果発表の時がやってきた!」
「Halloween2121今回の”Halloween King"は!」
「Entry No.2021 田中!」
翌日のスクランブル交差点、多くのビジネススーツに身を包んだ人々がすれ違う。
お読みいただきありがとうございました!
初投稿作品のため拙い文章だったかと思います。これから上達していきたいと考えておりますので、気になった点やアドバイス等があれば是非ともコメントいただけると嬉しいです。
また、個人的にこの作品はポジティブに受け取っていただければと思いながら書きました。受け取り方は様々だと思いますので、感想の方もよろしければお聞かせください!
最後に、これから短編や長編を書いていこうと考えております。いくつか構想はあり、近々次の作品を投稿しようと思いますのでその時は是非、そちらの作品も読んでいただければ幸いです。