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早坂 翠

早坂 翠


ほどなくして信号は青に変わり道路を横断する、そこからさらに少し道沿いを歩くと日本気功術協会吉城寺支部の看板が出ている7階建てのビルが見えてきた。

連れだって中へ入ると受付がありまずは本日の来館目的を受け付けAIへと告げる、タッチパネルに名前を入力し来館の記録をしておく。

この支部には中学校の時から通っている、中には練気術の講習と上の階では各種武術の指導もしている5階にはシャワールームとサウナ・ジャグジーがあり協会関係者なら無料で使える。

今日の目的は5階がメインではないと最初に言っておこう、今日の目的は彼女との乱取りまたは試合だ。


俺の体に曾じいちゃんが憑依している間になぜ昔の初恋である早坂翠が彼女になったのかを話さなければいけない。

それは今から1年前大学に通う傍ら俺は気功術協会主催の武道大会へと出場したらしい、そして何故か俺はそこで優勝したらしい。

たまたま女子の部で出場し優勝したのが早坂翠、その時はじいちゃんが憑依しており翠が幼馴染だったことなど知らず声もかけなかったのだが、その数日後協会の吉城寺支部でたまたま会って、じいちゃんが無視して思い出してくれない事に腹を立て彼女が食って掛かり勝負を申し出たという。


「貴方大会で優勝したわよね、それに私のことなんで覚えていないの。ショックなんだけど」

「そんなこと言われても解らないものはしょうがない」

「思い出させてあげるわ、勝負よ!」


今期の大会で優勝した男子と女子が試合をするという、ちゃんと興行すればかなりの売り上げをあげられるであろう好カードだが、もちろん会場はこの支部内でしかも観客はその時この支部にいた数人だけと言う。


「覚悟しなさいよね」

「お手柔らかに」


当然のことながら魔法はご法度だが気功防御法と気功強化法はOKでの試合、道着に着替えて試合を開始する、審判は支部の支部長である池田亮一氏。


「はじめ!」


軽いステップを踏む翠に対してまるでどこからでもと言うようなポーズをとる曾じいちゃん。

彼女の攻撃をことごとくかわしてスタミナ切れを誘う。

優勝するだけの力を持つ彼女の動きは経験者ならば少しは対応することができても、連続して突き出される攻撃に耐え切れなければ、隙ができてすぐに何発かもらってマットに沈んでいるはずだろう。


その攻撃を全て躱して見せたのだからじいちゃんの力も半端ではなかった。

そして不用意に出した彼女の勝負技回し蹴り連続2回、先ほどコウが食らった技だ。

同じようによけた後掴んだ足を引き倒し真上からの正拳突き、もちろん寸止めながらその時風がブワッと吹いたと言う。

そのあとはマットの上で何故か泣きわめく彼女をなだめる俺の体に憑依した曾じいちゃん(体は19歳)がいた。


彼女は俺(曾じいちゃん)に負けるのが解っていたが手も足も出ないとは思わなかったらしい。

しかもまるで遊ばれているようにことごとく突きや蹴りを躱されるなんて今までに唯の一度も無かった事だった。

盛大に泣く彼女、しまいには泣き止むことを条件に食事をおごらされたという。俺の体を借りてなんていうことをしてくれるのだ。

先ほどのシーンはすでに体験していたことのようだ、デジャビュじゃん。

何とか泣くのを収めてもらい曾じいちゃんは俺の脳内にある記憶の中から彼女に関する思い出を探し当てて対応したらしい。


そしていつの間にかちょくちょく会うようになり現在に至る。

いい年してよく若者と話を合せられるよねそこだけは感心したよ。

確か彼女の家は良いところのお嬢様だった記憶がある、ちなみに早坂家は武道ではなく茶道の家元で実家は分家に当たるが現在の家元からの指名で彼女の母親が次の家元になるという。

父親は防衛相の次官をしており家は三鷹にある高級マンションと聞いている、ちなみに彼女には弟と妹がいる。


彼女とは小学校からの幼馴染でクラスは別になったりしたが今でも覚えている、授業中にクラスの男の子が他の女子にいたずらをしたときに、面と向かって得々とその非生産性を小学生ながら説いているのを。その日からクラスの男子どもは彼女を無視し始めたが、俺にはできなかった。


彼女とは帰り道が同じで登校も一緒、さらに朝は必ず母親が付いてきて俺の親ともよろしくとあいさつをする。その頃は俺も三鷹に住んでいた。

見た目がかわいいだけではなく、挨拶も言葉使いも徹底的に仕込まれている彼女を見て、俺には恋心しか浮かばなかった。

あれが羊の皮をかぶった狼だったとは・・・・

まあそれからほどなくして彼女は身長がどんどん伸びて小学校高学年になったときには背が一番高くなっていたのは覚えている、その時の俺はまだ彼女より10センチも背が低かったのだから。


中学に入り俺の身長も遅ればせながらどんどん伸びて行って、中二で彼女と同じ身長になりその頃には一緒に登校などしなくなっていたが。中学時代の彼女はモテまくっていたので、俺の近寄る隙は無かったのを覚えている。下校時に先輩から告白をされているのもね。

高校は確か偏差値の高い女子高へ進学したと聞いていたが、まさかバイオレンス系に変貌する女子高があるとは・・衝撃の変化だ。

中学時代から空手を習っていたのは知っていたから、多分そちらの方面への気持ちが大きくなって行ったのだろう。


よく調べたねって?、そりゃ好きになった子の事は知りたいのが普通でしょ、まあ小学校の頃だから淡い恋心までだったけどね。告白未満・

まさか俺までそちらへ行く羽目になるとは思いもよらなかったよ・・・・

俺自身は親から練気法の手ほどきを受けたついでに武術は一通り教えてもらっていたがまさか試合にまで出場するような腕は無かったはずだ、俺の体を使い曾じいちゃんが余計なことをしたおかげでこうなったわけだが、この先こういうことが続くと思うと少し憂鬱になる。

(暴力反対・・)


更衣室へ行き道着に着替えると2階の道場へと入っていく2階には青畳とリングがあり数種類の格闘技に対応する練習場になっている。

壁やロッカーには防具や武器などが置いてあり、そこからヘッドギアと空手用のグローブを取って腕にはめていく。


「準備できた?」

「マジでやるのか?」

「そうよ、当り前じゃない!」


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