隠れ鬼 【月夜譚No.100】
鬼に捕らえられた者は、一体どうなるのだろう。
少年は教室の隅で膝を抱えながら、連れ去られた友人達の顔を思い出していた。恐怖に震える身体を抑え込むように立てた爪が、日に焼けた皮膚に食い込む。
こんなことになるならば、面白半分で夜の学校になど来るのではなかった。友人の挑発に乗って、肝試しになど参加するのではなかった。
今のところ、少年は鬼の影しか目にしていない。磨りガラス越しに見たのは、二メートルはあろうかという大きな体躯に、頭の上に二本の角。更に手には金棒に似た長く太い武器を持っていた。それが本当に鬼なのか確認したわけではないが、その見た目から友人同士で鬼と呼ぶことにした。
その影を目撃してから学校から脱出しようと試みたが、どういうわけか何処の扉も窓もぴたりと閉じ切ったまま開く気配がない。そうこうしている内に友人達は一人消え、二人消え、今は少年ただ一人になってしまった。きっと、皆はあの鬼に捕まってしまったのだろう。
その時、廊下の方から何か硬いものを引き摺るような音が聞こえてきた。それはどんどん少年のいる教室に近づいてくる。
少年は硬くなった身体を更に硬直させ、縮こまった。呼吸音さえも漏れないように膝頭に口を押しつけ、息を潜める。
暗い教室に響き渡る不気味な音。その正体が廊下に差し込む月光に映し出される前に、少年の瞳から涙が零れた。