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花と拡声器余談:「夏のある日」

顔とか洗って髪整えて。

「朝って何でこんな面倒なんだろうねえ」

思わず、溜息を吐いた。現在8月某日。宿題溜めたカワイソウなガキ共が慌てて宿題を消化し始める頃だ。ま、最後の最後まで溜める奴は未だにやってねえだろうけど。

布団を畳みつつ時計を見ると某体操の時間はとっくに終わっていて、テレビの方の体操が始まりそうな時間だった(2回目の方)。


「やべえ、寝過ごした」


戸棚から高い栄養バランスを謳う、乾燥した高カロリーな棒を取り出し、咥えた。うげえ、変な味のやつじゃねえかコレ。思わず顔を顰めたが、一度口に入れたものは出すわけにはいかんので流し台に駆け込み、水と共に流し込んだ。


口直しの梅飴を舐めつつ今日の予定を確認する。ビシッとポーズを決めた、数人のヒーローが載っているチラシだ。

「やっぱ10時からか。……んー、こっから会場まで大体10分弱……」

走れば間に合うな。よし予定続行。寝巻きのシャツとハーフパンツから外出用のシャツとパンツにチェンジだ。

「今日はコレだな」

取り出したのは「栄養、足りてる?」と書かれた白地のシャツだったが栄養は今さっき取ったばっかだから平気だろ。

戸締りをきちんとして黒いパーカーを羽織ると外に飛び出した。


×


「はーやっぱ、ヒーローっていいよなあ」


全力で走ったお陰で開始直前のMCの話にもギリギリ間に合い、余すことなく観られた30分のヒーローショーには大満足だった。声と動きには大きなズレは無く、アクションもしっかりしていた。

「ま、火薬とかワイヤーアクションとかは流石に無理だもんな…あ?」

会場を出ようとした目の端に「濃厚ミルクバニラソフト」の看板が目に入った。

「どうする」

ポケットの財布と相談。お財布には一枚格安の紙幣が潜伏していた。300円、余裕でいけるな。


「濃厚ミルクバニラ1つ」

手渡されたソフトクリームの風味と冷たさにしたづづみを打つ。名前通りのミルクの濃厚な味とバニラビーンズの甘い匂いが見事に合っている。ワッフルコーンの香ばしさも良いアクセントだ。


と、子供の泣く声がした。


見ると、木の根元に泣いている子供(ガキ)が居る。

「……」

木の上の方にスッと目を遣ると、案の定、先程のヒーローショーで会場入り口で小さい子供に手渡されていた風船が、木の上の方に引っかかっていた。


×


「見事にテンプレだねえ」そう思わず小さく呟いたが、マ、こっちだってどっかのテンプレのような生涯暮らしてんだから、そこのガキの人生を多少ハッピーにしたって文句は言われないだろ。


立ち上がり、泣きじゃくるソレに近づいた。


「なあガキ、あの風船、そんなに大事か?」

小さいからしゃがんでも目線が割と近かった。突然話しかけられた驚きで泣くのを止めたガキは、涙で潤んだ目を此方に向け、大きく、しっかりと頷いた。目元どころか耳までが真っ赤になっていて痛々しい。

「そんなら仕方ねえなあ……オレが取ってきてやろうか?」

その言葉に涙で潤んだ目は大きく見開かれ、今にも溢れそうだった。そんな顔すんなよ、目ん玉取る為にこんな行動してねえっての。


「ちょっと待ってな」


ガキから離れ、風船を良く観察してみる。赤い透明な風船は、青々とした木の葉や枝の中に挟み込まれてしまっている。……こりゃあ、乱暴に引っ張ったら割れるやつだな。ガキを更に泣かせる趣味は生憎持ち合わせてねえんだ。……仕方ねえ、登るか。


×


「ありがとう!」


風船の側まで登り、そっと風船を枝から外した。枝を伝って降りるのは面倒でそのまま枝から飛び降り、取ったそれをガキに渡すと、ガキは満面の笑みで受け取る。周囲からパラパラとばらけた拍手が聞こえ、ふと顔を上げると数人の野次馬が居やがった。オレはオマエ等の人生を感動的(エンターテイメント)にさせる為にやったわけじゃねえよ。

「別に。ただの気まぐれだ」

人に囲まれると落ち着かねえ。さっさとここから離れよう。


と、


くい、と手が引っ張られ


「ねぇ、コレあげる!」


満面の笑みを浮かべたまま、ガキが引っ張った手に何かを差し込んだ。

「……」

みると、先程ソフトクリームを買った店の無料券だった。……250円か。


「風船のお礼!」


「……別にお礼が欲しくてやったワケじゃねえ「お願い!受け取って!」

被せるように言いやがった。すごい必死っつうか悲痛な顔してるし断れねえじゃんコレ。ってか周囲からの「受け取れ」って圧がやばい。なんだこの空間。

「…わかった。ありがとな」

受け取るとガキはぱあっと表情を明るくし、たたっと母親らしき人のところへ駆けて行った。目が合った母親と気まずい会釈。


×


「バイバイ!」

ガキは母親(推定)と手を繋ぎ、繋いでいない方の手を此方に振った。無邪気な笑顔で。……実は結構あざとい系のガキだったんじゃないかコレ。

「はいよ」

そっと手を振り返すとさらに嬉しそうな顔をして帰って行った。それに合わせて周囲の野次馬共もいつのまにかばらけていた。


「どーすんだコレ」

期限今日までのやつじゃねえか。流石に美味くてもアイス2つはちょっとな。

「あ、」

巷でウワサのドリンクあるな。価格は……うわ丁度250円。ドリンクなら持ち帰れるか。


「ミルクティー1つ」


パーカーのフードを目深にかぶり、日の照る帰路を辿りながら一口。

「ぐは、」

喉に突撃された。痛くねえけど衝撃凄まじいなコレ。追撃は御免被りたいんで二口目はゆっくり飲み込む。





ー補足ー


×テレビな体操(2回目)の開始時間は9:55程

×軽い時間経過、強調したい内容などを1行の空白で囲っています。

×大きい時間経過は章として分けています。

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