第一話
始めまして。湯葉狗と申します。初投稿初作品ですので、至らない点、下手な戦闘シーンが多くありますが、それでもよければご覧ください。
人外×少女って…いいですよね(笑)
「もし、私が宝石だったら、貴方は私の事を食べてくれるの?」
茜色に染まりながら揺れる白く柔らかな髪を風になびかせて、少女は目の前にいる男に問いかけた。男はそんな猟奇染みた問いかけに動じることなく、自分よりもはるかに背の低い少女を見下ろした。
少女が薄いブラウスのボタンを一つ、一つ外していけば、無機質に感じるほどの白い肌が露わになる。幼さの残る胸の真ん中には、人間にはあるはずもない穴があり、淡い乳白色の結晶が発光しながらそこにある。それを見せるように、少女は両手を広げ男へと歩み寄る。
「ね、宝石みたい綺麗でしょ?きっと食べたら甘くておいしいよ?ほら、食べてよ。私を食べてよ。竜人さん」
男は、少女を丸のみにできるほどの大きな口を開く。ずらりと並んだ鋸刃の様な歯がそこから覗く。恐ろしいそれを、少女は迎え入れるかのように微笑み、手を伸ばした。
「さあ、召し上がれ」
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約100年間もの長い間、人間と竜人族は宝石や鉱物資源を巡って争ってきた。
機械と魔法の共存と発展を遂げてきた人間たちにとって、宝石や鉱物は欠かせないものであった。上質な鉱物、宝石の類は魔力の媒介となり、エネルギー源として人間に恩恵をもたらしてきた。
一方、竜人族にとっても宝石や鉱物は生活には欠かせないものであった。上質な鉱物、宝石類は彼らにとっては食料そのもので、生命維持には必要だった。
そのため、両者は鉱物資源を巡って争いを続けてきた。戦いは激化し、多くの犠牲と血が流れ、両国は荒廃の一途をたどって行った。いつしか、豊富にあったはずの資源も、戦争の武器として使用されるようになり、激減していった。このままでは、人間も竜人族も滅ぶことを恐れた当時の首脳は互いに和解を求め、終戦。人工鉱石の研究、開発に着手し成功を収め、現在は人間も竜人族も手を取り合い新しい国を築いていった。
しかし、戦争の傷跡が消えたわけではない。人間が強固な鱗や翼、鋭い歯に爪を持った竜人族に対抗するために生み出した兵器達が、負の遺産として今もなお存在し、稼働しているのだ。
対竜人用人型兵器「宝石人形」見た目は6歳から12歳の少年少女の姿をしており、体内に埋め込まれた鉱物や宝石を原動力として動く兵器。埋め込まれたものによって力、魔法の属性が変わるので、幅広い戦略が生まれることから人間はこれを大量に生み出した。戦争が激化した頃には10万体もの宝石人形たちが生み出され戦場を駆けていた。終戦を迎えた後、彼らは必要がなくなり解体命令が下されることとなった。
だが、彼らの中にあるモノが芽生えていった。それが感情だった。彼女たちはいつしか戦場の中で感情を生み出し、そして生に執着するようになった。処分しようとする者達から逃れ、彼女たちは今もなお各地で隠れながら存在しているのだった。
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鉱山に囲まれた街、ロペスブルグ。蒸気がもうもうと立ち昇り、日夜問わず機械の歯車は働き続ける決して眠ることの無いここは、今や数少ない採掘所の一つだ。地下深くまで大きくぽっかりと空いた採石用の大穴は現在でも、少ない貴重な資源を求めて掘りすすめられている。大穴の岩壁には家や店、加工所などがまるで壁掛け棚のように建っている。建物を繋ぐようにパイプや電線、移動用ゴンドラの紐がまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
地鳴りのような低いサイレン音と共に、大穴の入り口にある巨大な歯車が音を立てて回り始める。町中に張り巡らされたパイプや電線などを避けるよう中央から一つの大きなコンテナが引き上げられてくる。その中には、アメジストや水晶などの鉱物の他に、鉄や銅が積まれていた。穴の入り口まで行けば、各地からやってきた商人たちがグレードの高い鉱物を次々と買い取っていく。その後、各フロアで途中停車をしながら下がって来るコンテナにフロアに停まるごとに店や加工所から、店主や職人が出て来て品定めを行い、それぞれ交渉しながら買い取っている。
「おい、この水晶をくれ」「はいよ!」「これは不純物が多い。ちょいと安くならねえか?」「悪いね、これ以上は安くなんないぜ」「この削りカス、三袋ほど買う」「まいどあり!竜人の兄ちゃん。これもなかなかいいぜ?他のとこより安くするからよ…これでどうだい?」「前よりも質が落ちてるのにこの値段って。ちょっと足元見過ぎじゃないかしら?」「難癖付けるなら他当たんな…」「ちっ…今日はハズレしか残ってねえのかよ…」「しょうがねえだろ?質のいいのはみんな都会の奴が買っちまうんだからよ」
買い付けに来た者たちと採掘者たちの賑やかな声が大穴に響く。その少し外れに一人の竜人族の青年が無造作に積まれた木箱の一つに腰かけていた。
赤い強固な鱗に、立派な角は少々欠けてはいるがしっかりと二つある。長い尻尾はだらりと垂れて力が抜けている。蝙蝠の様な翼はところどころ皮膜が破れているが飛ぶことは出来るだろう。屈強そうな彼だが、膝に肩肘をつき、鋸の様な歯が生えた口はだらしなく開き、涎を垂らしながら眠りこけている。
そこへ、剣を腰に差し、軽い鎧を着た碧眼の若い娘が、後ろで結んだ金髪を揺らしながら近寄り声を掛けた。
「ちょっとジーク?いつまで居眠りしてるのよ…」
「んが?ふあ~ぁ…んだよカトレア。せっかく気持ちよく寝てたのによ…」
「呆れた、警備の仕事中に寝るなんて。アンタ本当に傭兵?まともに働いてるところなんて見たことないんですけど」
「うっせえ。いいじゃねえかよ、世の中が平和ってことだろ?こうして傭兵の俺が昼寝できるぐらいによ」
「こっちはお金払ってんだから、居眠りだけはやめてよね。もしも何かあったらどうすんのよ…”災狂の竜人”だか何だか知らないけど、これじゃあただの給料泥棒ね…」
「何とでも言ってろ。俺は俺の好きにさせてもらう、これがお前の所の上司との契約条件だからな。文句は上司に言ってくれや」
ひらひらと手を振りカレアを追い返す仕草をする。カトレアはムッとするが、これ以上何を言ってもこのトカゲは聞きはしないと諦めたようにため息を付き、ジークから離れた。去り際に、べーっと舌を出して。
そんな事には全く構わず、ジークは大あくびをしてから再び居眠りの続きをしようとしたその時だった。「キャーッ!」と女性の悲鳴がコンテナ内に響き渡った。悲鳴が聞こえたところから、小さな人影が走ってコンテナ内から飛び出していくのがカトレアから見えた。腰が抜けているのか、悲鳴を上げた女性がその場にへたり込んでいる側へ、カトレアが駆け寄る。
「どうしたんですか!?」
「わ、私の、買ったアメジストを誰かが奪ったのっ!!」
「落ち着いて下さい。顔は見たんですか?」
「い、いいえ…フードを被っていたから顔は見えなかったわ。でも…背丈からして子どもだったと思うけど…」
「子どもが…!!ジーク!!」
女性から盗んだ犯人が何者か瞬時に理解し、このことをジークに伝えようと彼がいた方へ顔を向ければすでに、彼の姿はなかった。
※◆※◆※◆※◆
コンテナから勢いよく飛び出した影は、張り巡らされている一つのパイプに軽々しく着地すると、その上をたどるように駆けていく。次々と電線やケーブルの上に飛び移りながら、建物間の陰に滑り込むように姿を消す。息も上がることなく、人間離れの芸当をこなした子どもが一つの木箱に手をかけふたを開ける。そこには、少女が一人うずくまっていた。髪の毛はぼさぼさで、顔のあちらこちらがひび割れ、左目は破損しそこからコードや部品が覗いている。黒を基調とした軽装な戦闘服を着ているが、ところどころ破れほつれてしまってみすぼらしい。ふたが開いたことに気が付くと、顔を上げる。
「お、かえ、り…A-…9865…だれ、n…もみつか、って…な、い?」
「ああ、大丈夫だよA-9866。あの速さじゃ、誰も追って来ないから。安心して」
「そ…う。よ、かっt…」
ノイズ交じりの音声で喋る少女に、フードを外して少年が顔を見せる。少年も顔のあちらこちらがひび割れているが、少女ほどまだ酷くはない。
まるで割れ物を取り出すように優しく少女を抱き上げ、箱から取り出す。壁にもたれかかるように座らせると、服の前ボタンを外していく。そこから薄汚れてひびの入った身体が露わになる。
幼さの残る胸の真ん中には、人間にはあるはずもない穴があり、すみれ色のアメジストが弱弱しく発光しながらそこにある。それはひび割れ、今にも壊れそうだ。
「間に合ってよかった。質はこれよりも良くはないけど、動力源の代わりくらいにはなるはずだ」
「あ、り…が、とう。A-98…6…5…じゃ、あ…おね、が……!!」
「A-9866どうした?」
「A-9865!うしろ!」
眼を見開いた少女の言葉に少年が振り返ろうとしたが、振り返るよりも早く赤い手が少年の細い首を掴み持ち上げた。少年の目には腕の先にいる竜人のおぞましい笑顔が写った。凶悪な歯をぎらつかせ、金の瞳は嬉しそうに細められ狂喜しているようだ。
そう、竜人ジークは狂喜した。
久しぶりの獲物に狂喜した。
少年はジークの腕を掴み、手に力をこめる。
普通の人間の腕なら瞬時にへし折れているだろうが、竜人ジーク太くたくましい腕にはビクともしない。
少年は腕力で抵抗するのをやめたのか手を放す。
少年の胸が光り輝くと、両手にすみれ色の魔法陣が展開し、紫色の火花が飛び散り電気が生まれる。その電流を帯びた手でジークの腕を掴み電気を身体に流した。
辺りに焼け焦げた匂いが充満する。
やったか?そう思ったが、現実は甘くない。
竜人は嬉しそうに笑いながら少年を見ている。
「そうこなくちゃ面白くねえな」
今の状況を楽しむかのように言い放つと、片方の拳で少年の顔を殴り飛ばす。
殴られた勢いで後ろに飛び、少年は壁に叩きつけられる。
壁は瓦礫と化し、崩れた。
首を鳴らしながらジークはゆっくりと瓦礫の方に近づく。
「なんだよ、もう終わりか?ほら立てよ、もっとやろうぜ?」
瓦礫の中から少年の腕を掴んで持ち上げる。
持ち上げられた少年の手にはすでに魔法陣があった。
掴んできた腕を逆につかみ返し、ありったけの高圧電流を流す。
腕を引き寄せながら勢いよくジークの顎に蹴りを入れる。その勢いで距離を取ると、構えを取った。
鼻血を長い舌で舐めとりながらニヤリとジークは笑った。
「いいねぇ、少しは楽しめそうだ!」
ジークが距離を詰め、右手で殴りつける。
その手を少年は軽く左へ受け流し、腹に手を当て電流を流す。
電気を帯びた片方の手で、顎を打ち上げる。
それを真っ向から受け止め、ジークは少年の腹に重たい蹴りを入れる。
後ろに吹き飛ばされるが、踏ん張り態勢を整える。目の前をジークの拳が来るが、後ろに横流し、ジークの背に回り、蹴りを入れる。
殴った勢いと共に、瓦礫に粉塵を巻き上げながら激突する。
「今のうちだ、逃げるよ」
少年は動けない少女を抱きかかえて路地から表へと駆け出し、大穴へと飛び出す。
パイプやケーブルを、軽々と渡り歩きジークから距離を離す。
大きなパイプの上に着地すると、瞬時に振り返り、飛んで追ってきたジークに片手をかざして電撃の塊を放つ。
とっさのことだったが、ジークは腕でそれを弾き防ぐ。
しかし、防いだせいで一瞬視覚を奪われてしまった。
その隙に少年は一気に下層部の方まで逃げていった。
ジークは少年を見失い、面倒くさそうに頭を掻く。
「ったくよぉ、かくれんぼか?めんどくせえな…」
悪態を付きながらも、少年の追跡を諦めたわけではない。
そのまま少年の臭いを追って下層部へと滑空していく。
ロペスブルグの下層部は採掘所となっていて、採掘の為に掘り広げられた坑道はまるでアリの巣のように複雑に入り組んでいる。
少年は一つの坑道に逃げ込んだ。ゆっくりと抱えていた少女を地面に下すと、目の前にひざまずく。
「A-9866、ここなら大丈夫。僕ら以外の熱反応はない。安全にコアの交換が出来る」
「A-…9…65、もう…いい、よ。わたしn…から、だ…はもう、げん…かいみ、たい…これ、は…あなt…が、つかっ…て」
自分の胸にはめ込まれた壊れかけのアメジストに手を伸ばした少年の手を少女はそっと握り、微笑む。
もう自分は限界で、コアであるアメジストを交換したとしても恐らく身体が破損に耐えられず、壊れてしまうことを少女は悟った。自分の事は自分がよく理解できているから。
それならば、自分ではなくまだ動く少年の方にアメジストをストックとして持っていてもらいたい。自分よりももっと長く動いて欲しいから。そう願いを込めて、アメジストを持つ少年の手を両手で包み押し返す。
少年は少女をジッと見つめた。自分と同じ時期に、同じ場所で生まれた存在で、どこへ行くのもいつも一緒で、任務も必ず二人で行動していた。同じ時を歩んできたのに、彼女は自分よりも感情的で、そして優しかった。同じ機械人形として羨ましいと思うほどに。
だから、彼女ともっと一緒に居たいから。自分はどうなってもいいから。彼女だけは守っていたかった。
それが今日まで自分を動かし続けていた動力源だから。
握られた手に目線を落とし、それを少女に押し返す。
首を振り、無言のまま俯く。
その姿を見て、少女はクスッと笑ってしまう。
「もう…A-9866は、すなおじゃないんだから」
「…僕にはわからない事だよ。でも、僕は君にこれを使って欲しいんだ。これからも、僕と一緒に、居て欲しいか…ら……え?」
自分の思いを口に出して伝えた。きっと彼女は笑うだろう。変わらぬ笑顔で。
そう、思っていたのに、目の前の彼女は機能を停止していた。
眼から光が消えて、いつもあるはずの笑顔が消えて、そこにいた。
彼女の胸に目をやる。
アメジストを、黒色に煌めく剣が貫いていた。
その剣は、自分の胸を突き破って伸びている。
振り向くとそこに奴がいた。
自分と彼女に剣を突き刺して、黄色く光る眼でこちらを見ながら。
「感動の場面で申し訳ねぇけどよ…俺は殴り合いの真っ向勝負は好きなんだわ。けどよ、鬼ごっこはどうも嫌いなんだわ。ちまちま追いかけて、追い詰めて、壊す。単純すぎてつまんねえよ…なぁ、アメジストの機械人形?」
「っ!!!ああああああああああああああああああああ!!!!!」
坑道が揺れるほどの魔力の波動が少年から放たれる。
剣を抜き、ジークは後ろに飛びのいた。
少年は少女を地面にそっと横に寝かせ、瞼を手で優しく閉じると竜人の方に身体を向ける。
少年の胸にはめ込まれたアメジストには、ジークが剣で貫いた跡があり、今にもひびが全体に周り粉々に砕けそうだが、今は濃い紫色の電磁波を帯びてその形を強く保っていた。
「お前だけは…お前だけは絶対に許さないぞ、竜人!!!」
少年は一気にジークの懐へと距離を詰める。
その勢いのまま、素早い動きでジークの腹にめがけて拳で連撃を喰らわせる。
魔法陣を展開しなくても、高圧の電流が少年に流れているため、電流を帯びた連撃がジークを襲う。
身体が衝撃で浮くと、思い回し蹴りをみぞおちに一発いれる。
蹴りを入れられ飛ばされたジークだが、脚に力を入れ踏ん張り留まる。
「っはははは!いいぞ!さっきよりもいいじゃねえか!そうだよな、殺し合いってのはこうでなきゃ面白くねえよなあ!」
喜びに満ちた顔を上げると、目の前には少年の膝が迫り、何も構えないまま顔面に膝蹴りを喰らう。
後ろによろけた所で顔面を両手で捕まえ、電流を流しながら頭突きを喰らわせる。
真正面から受けながら、少年の身体を捉えて壁に向かって投げ飛ばす。
少年の身体が壁に激突し、壁がへこむが全く痛みを感じないのか、顔色一つ変えずにジークを見据える。
手から流れる電流を一つにまとめ、剣のように形成し構える。
それに応えるように、ジークも自分の剣を構えた。
少年は飛び込むように電流の剣で斬り付ける。
ジークはそれを剣で受ける。
両者の間にバチバチと電気がはぜる。少年の剣を弾き、胴に向かって斬撃を放つ。
ギリギリのところで避けて、脚で剣を軌道をそらし、空いた胴体に向けて電撃の剣を勢いよく突き立てる。
刹那、がっしりと剣を左手で掴み受け止めるが、バチバチと激しい音と共にジークの全身に電流が走る。
―――このまま一気に電気で焼き殺す。
そう思うと、電流の威力が増す。
普通の人間ならば簡単に死んでしまうであろうその電流を正面から受けながら、ジークは両手で少年の剣を掴む。
「バカが。このまま焼け死ね!!」
全身の魔力を剣に集中し、全て電気に変えてジークにありったけの力で流し込んだ。
カッと紫色の閃光が走ったかと思うと、少年とジークを中心に爆発が起こり、辺りは白い煙が立ち込める。
魔力を使い切り、力が抜ける。
――――勝った。終わったんだ
その場にへたり込もうとした時、煙の向こうから赤い腕が延び、少年の胸にあるアメジストをがっしりと掴んだ。
竜人は、ジークは倒れてなどいなかった。
まるで、遊んだあとの子どものように清々しい顔をして少年を見ている。
「いやあ、なかなか楽しかったぜ?ありがとな」
「っ!!!貴様っ!!」
「ん?なんだよ?死んだと思ったか?んなわぇねえだろ。あれぐらいの攻撃じゃあ俺は死なねえよ」
「くそっ!くそおおお!この竜人めええええ!!!」
「いいねぇ、いいねぇその顔だよ!怒りに震えたその顔!でっかい感情こそがお前らを強くするんだよ!ああ、戦いってのはよぉ、殺し合いってのはよぉ、こうでなきゃつまんねぇよなぁ?」
少年の機械人形が最初で最後に抱いた強い感情は、憎しみ、怒り、悲しみだった。
出るはずもない涙が少年の目から溢れる。
それは、本当に涙なのか、それとも魔力が溢れて流れ出ただけなのか、もうそれは誰にもわからない。
―――――パキンッ…
ジークが少し力を入れただけで少年のアメジストにひびが入った。
薄れゆく意識の中、少年は少女の方に目を向ける。
眠るように横たわる彼女に残された力で手を伸ばそうとしたが、その手は彼女に届くはずもなく力なくだらりと垂れた。
その様子を気にすることもなく、機械人形からアメジストを抜き取る。
抜き取られた機械人形の身体を、側にあったもう一体の機械人形の方へと投げる。
ガシャンと無機質な音と主に、二体の人形はバラバラに壊れてしまった。
手に残ったアメジストをジークは眺めた。
濃い紫色をしたアメジストは、坑道内のライトに照らされて、中に入ったひびが光を跳ね返しキラキラと輝く。
目を細めてそれをしばらく眺めた後、それを口の中に放り込む。
ガリゴリと噛み砕き、ごくりと嚥下する。
恍惚の表情を浮かべ、ジークは余韻に浸る。
「これだよ…やっぱ、食事ってのはこうでなくちゃなぁ」