26.ビアガーデンと「僕」のおはなし
本日の飲み会会場は、とあるホテルのビアガーデン。何でも絡新婦がおとした男が、このホテルのオーナーなのだそうだ。公私混同であろうとは思うが、タダ飯、タダ酒は美味い! さあ、妾は呑むぞ。酒を持って参れ。
なんて意気込んでみたは良いものの、妾は途中であっさり飽きてしまった。どうせなら妾も絡新婦のように「ぐっどるっきんぐがい」と「ふぁびゅらす」な「でーと」をしたいのう。何が悲しゅうて、こんな変態の相手をせにゃならぬのだ。烏天狗に蟒蛇の話など、もはや聞き飽きたわ。
「ため息ばかりついて。まったく聞いているのですか。うちの奥さんの可愛いことと言ったら!」
烏天狗がぎゃあぎゃあ騒ぐ。真っ黒な「すーつ」に眼鏡をかけたこの男、最近は株の投資で儲かっておるらしい。天狗といえば、剣術が得意なのが定番ではなかったのかのう。見た目から「ほすと」と言われることもあるそうじゃが、ひとに媚を売るのが大嫌いなこの男が酌などできるものか。どちらかと言えば、金貸しがお似合いじゃの。
「うるさい、この『ろりこん』め」
「ロ、ロリコンですって?!」
「ろりこん」であろうよ。いくら実母と継父に虐められているとはいえ、幼女を嫁に娶るとなどありえん。養女ですらないのじゃぞ。大体烏天狗の歳から考えれば、棺桶に片足突っ込んでおる老婆ですら「お嬢さん」であろうに。何をとち狂って幼稚園児を誘拐したのか。そもそも、この男、昔から山で迷子になった童がおると、わざわざ送り届けておったの。なるほど、あの頃から性癖を拗らせておったのか。恐ろしいことよ。
「誘拐ではありません。嫁取りです!」
ええい、黙っておれ。ひとの世界ではのう、それを「未成年者略取」というのである。わかっておるのかの? 親が騒いだら警察が動くぞ。妖怪とはいえ、ひとの世に溶け込んで暮らしておるのなら、騒動は避けねばな。
「問題ありませんよ。私の可愛い奥さんが受けた仕打ちを100万倍にして返しているところです」
ああ、想像がついたわ。こやつ、やり口が陰険であるからの。死なぬようにじわじわと痛めつけておるのであろうなあ。おおかた、烏に襲わせて全身の肉を少しずつ食いちぎらせたり、身体中のありとあらゆる穴を面白半分に突かせたりしておるに違いない。いっそ死んだ方が楽じゃろうに、もうこうなっては己で死ぬことも選べぬからなあ。今までやってきたことの反省ができれば救いも……まあないわな。自業自得と因果応報の意味を知る人間であれば、幼子に暴力を振るうことはないであろうし。
「ねえ、ご存知です?人間の脳みそって、ず……」
「いちいち詳しく語るのはやめい。『すぷらった』は妾の好みではない」
河童神社の仕事をしている癖に何を言うだと? 馬鹿め、あの仕事は『すぷらった』ではないぞ。全体的な流れからいけば、あれは『らぶすとーりー』である。さすが乙女な妾にふさわしい、趣向であるな。こんな変態とこれ以上話をすると妾が汚れる。「ぱす」じゃ。「ちぇんじ」!
「あいつはダメンズが好きだし、頼まれるとNOとは言えない優しい女の子だからな。俺がちゃんと面倒見てやらなきゃ」
はあ、そうじゃった。結局残りも別の意味で変態しかおらんのだった。妾は、目の前で恋人について語る蟒蛇を見てがっくりする。何でこの一族は、毎度失敗するのに人間との異類婚に固執するのじゃ。もう諦めて、同族と番っておくれ。毎回「すとーかー」になったり、「やんでれ」になったり、執着心が強すぎるゆえに成就しないのではなかろうかの。
「いや、お主こそ『だめんず』の代表ではないのか?」
この男も、見た目の危なさとは裏腹に見守り系じゃからの。おはようからおやすみまで。そこまでするなら、もういっそ相手を監禁した方がよかろうに。こやつの場合、その方がまだましじゃ。見守るゆえに周囲の人間に被害が出すぎていることに、なぜにこの男は気づかぬのだ。お主、先ほども恋人を虐める「すくーるかーすと」上位の女を喰ってきたばかりであろう? なぜにさらに肉を注文するのじゃ。ああ、口直しか。まあ、それは妾とてわからぬでもないぞ。
「あらん♡ そんな面倒なことしなくても、恋人を食べちゃえばいいのよん♡ 血となり肉となる一体感はたまらないわん♡」
婉然と微笑んでおるのは、絡新婦。これがとてつもない美魔女で、年齢は「たぶー」だ。決して聞いてはならぬ。まったく、あれだけの数の子どもを産んだとはとても思えんわい。
「何か言ったかしらん?」
な、何でもないぞ。まったく心臓に悪いのう。ああ、このホテルのオーナー、いつまで持つじゃろうなあ。あと半年、生きられるかのう。それまでの間に、このホテルの酒を堪能せねばの。
お、何とも奇遇じゃの。隣人が給仕をしておるとは。それ、そこの。苦しゅうない、妾に存分に「さーびす」すると良い。すべて受け取ってやろうぞ。……まったくお主は塩対応じゃのう。もう少し愛想よくしても罰は当たらぬと思うがの。ああ、絡新婦には塩対応で問題ないぞ。うっかり隙を見せたら最後、つけ込まれて骨の髄までしゃぶり尽くされるからな。
「それでは、いただきます」
何と、蟒蛇と烏天狗に勧められて、あやつアレを飲み始めたわい。ホテルの日本酒に混ぜて置いていたが、アレは酒呑童子の神便鬼毒酒じゃ。面白半分で蟒蛇が持ってきおった。鬼には毒、人間には薬となると聞いておるから、たぶん大丈夫であろう、たぶん……。蟒蛇のやつめ、烏天狗に不意打ちで飲ませるつもりだったのであろうな。ま、まあ、詫びとして河童の妙薬やら、天狗の妙薬やら、やるからの。もし万が一動けなくなっても、恨んでくれるなよ。
その後妾は、変態3人の相手をすることになった。烏天狗に蟒蛇に加えて、なぜに隣人の惚気まで聞かなくてはならぬのだ。しかもいい感じで神便鬼毒酒が効いておるのか、隣人が無駄に生き生きしておるのが腹立たしい。そなた「あるばいと」中なのであろう? はよう帰れ、帰ってくれ。いっそ妾の方こそ酔いつぶれてしまいたい。しばらくは、飲み会の開催と参加は控えようと妾は心に誓ったのだった。





