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「僕」と「彼女」の、夏休み~おんぼろアパートの隣人妖怪たちとのよくある日常~  作者: 石河 翠


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23.「僕」と火消婆のおはなし

 今日は昼間から、アパートの庭で花火パーティーだ。


 それというのも、アパート内で一斉にバルサンを焚いているから。そもそもこういった燻煙・燻蒸型の殺虫剤は、アパート全体で使用しないと効果が低い。例えば僕だけがこの殺虫剤を使っても、Gは配管や隙間を利用して、隣室の僕の彼女や川辺さんの部屋、あるいは階下の山田さんの部屋に「引っ越し」してしまう。そしてほとぼりが冷めた頃合いに、また僕の部屋に「出戻って」くるわけだ。完全にGは頭脳派である。


 というわけで、管理人さんにG撲滅作戦をお願いしたのだけれど、それを伝えた時の管理人さんはなんだかとても悲しそうだった。僕がサンプルとして買ってきたばかりの殺虫剤を見せたら、さらに少し青ざめた顔になっていたんだけれど、何か嫌な思い出でもあるんだろうか。とはいえ、山田さんも賛成してくれて、一応今日実行できることになったのだ。……たぶんタマも、ちょいちょい昆虫とかを捕獲してくるんだろうな。しかも褒めて欲しいのか、とった獲物を枕元に置いたりするとか聞くし……。その中にGがいるとか、僕は考えたくない!


 最近は煙が少ないタイプもあると聞いたのだけれど、アパートの窓からみえるもくもく具合から察するに、結構しっかりとしたタイプを管理人さんは採用したらしい。これで、僕が小さいおっさんの幻覚に悩まされることもなくなるだろう。


 それがわかれば、安心して花火を楽しもうじゃないか。井戸で汲んでおいたお水はバケツに入れて各所に配置OKだね。え、花火は夜にするものでしょうって? いやいや、昼間にする花火も楽しいもんだよ。もちろん夜にやる方が火花がより鮮やかに見えるけれど、手元が暗かったり後片付けが大変だったりするからね。このアパートみたいにお子さんがたくさんいると、昼間の方が実施が簡単だったりする。


 それに、今は昼間に楽しめる可愛い打ち上げ花火だってあるのだ。中からカラフルなコットンボールが噴き出したり、パラシュートをつけた様々なぬいぐるみが降ってきたり。カラースモークの花火も色合いが綺麗でオススメだったりする。結構大人も楽しめちゃうイベントなのだ。さて、それじゃあ手持ち花火用にろうそくを設置するとしますか。


 僕がろうそくを取り出すと、宇座敷さんちのお子さんたちが興味津々とばかりにわらわらとかけよってきた。


「それ、なあに?」


 子どもたちは、僕が取り出したろうそくを不思議そうな顔でみている。ああ、確かにちょっと見慣れないかもね。


「花火をやっているとね、面白いくらいに途中で火が消えるんだよ。まるで誰かがわざと火を消しているみたいにね。だから今回は、火が消えないろうそくをいくつか集めてみたんだ」


 今回僕は、どれが本当に消えないろうそくかコンテストを勝手にやるつもりでいる。


 エントリーナンバー1番、有名仏具メーカーが取り扱っている「消えないろうそく」。なんと、風が吹いても雨が降っても消えないというのが売りらしい。マジかよ。ちなみに「仏壇の中では使えません」と注意事項が書かれているあたりに、本気度の高さが伺える一品だ。


 エントリーナンバー2番、ジョークグッズの「消えないろうそく」。誕生日パーティーで、ふーっと息をふきかけてもなぜか火が消えない現象を起こしてくれるお遊びグッズ。普通の誕生日用のキャンドルと同じでかなり細いところが、ちょっと不利かもしれない。


 エントリーナンバー3番、お手製「消えないろうそく」。これは普通に市販されているろうそくを利用し、僕が一工夫加えた手作りだ。とはいえ、結構有名な話だし、時々テレビの情報番組で紹介されたりしているので、知っている人も多いかもしれない。作り方は単純、ろうそくをティッシュで巻き、さらにその上から光沢のあるチラシできつく巻き、最後は糊かマスキングテープでとめるだけ。


 エントリーナンバー4番、「花火用ろうそく」。そう、最近ではこういう専用品も売ってあるのだ。小さいバケツみたいな容器に入っていて、見た目も面白い。風に直接当たらないから、消えにくいという発想だよね。他のろうそくと違って、土台がしっかりしているのは強いかもしれない。


 エントリーナンバー5番、固形燃料。え、ちょっとそれ、ろうそくじゃないじゃんなんて野暮なツッコミはやめてほしい。きっとみんなそれだけ、花火の最中に火が消えることについて悩んでいるんだよ。僕はネットでググってこの情報に行き着いた時に、同じ悩みを抱える人の多さになんだか勇気づけられたんだからね。


 そんなことを言いつつ僕は最終兵器を取り出した。てれれ、ユーティリティーライター。


「まあ、ろうそくがダメなら僕がこのライターで直接つけるから大丈夫だよ」


 ピストルのように着火ライターをくるくると回せば、いつの間にか近づいていたタマが胡散臭そうに、僕を見あげた。え、猫型ロボットのギャグが滑ったから冷たいのかな……。うーん、猫は猫又かもしれないけれど、やっぱり花火から遠ざかっておいた方がいいのではなかろうか。って、また僕の足元に毛玉吐こうとしているし。ちょっ、やめてよね。もう今日は、花火で毛玉を燃やしてやろうかな。


 ろうそくへの並々ならぬ僕のこだわりに、彼女はちょっと呆れた顔をしていたけれど、結果的にこれだけろうそくを用意しておいてちょうど良かったと思う。昼間から花火をやっていたせいで目立ってしまったのか、途中から参加する子どもたちが増え、さらには近所のご老人たちまで来てしまったからだ。結構みんな、消えないろうそくコンテストに興味を持ってくれたので僕は嬉しい。途中、涙ながらに火について語るおばあちゃんがいたけれど、やっぱり昔いろいろと苦労されたのだろうか。


 何より、暑いのも熱いのも好きではない彼女が花火を一緒にやってくれたことが僕はとても嬉しかった。線香花火を見つめる彼女は、すごく綺麗だったんだよ。そうそう、花火が足りるか心配だったけれど、途中参加の皆さんはちゃんと花火を持って来てくれていたらしく、当初の予定よりもだいぶ長く遊ぶことができた。うん、やっぱり花火は夏らしいよねえ。え、花火って、本来なら秋の季語なの……。嘘でしょ。ちょっとだけ、昔の人たちとの季節感のズレを実感しながら、僕たちの花火パーティーは幕を閉じたのだった。


 なお、コストパフォーマンスも良くて、消えにくく、また手に入りやすいものを鑑みた結果、消えないろうそくコンテストの優勝はエントリーナンバー3番、お手製「消えないろうそく」だったことを最後に報告しておく。いやはや、意外な結果だなあ。情報番組、侮りがたし。

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スパダリカラス天狗と天然娘の異類婚姻譚です。
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