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19.「僕」とからかさ小僧のおはなし

 近所のコンビニに出かけた帰り、夕立にあった。


 ふふふ、こうなることはわかっていたのだよ、明智くん。僕はちゃんと外に出かける前に、天気予報と空模様を確かめる主義だからね。僕は無性に高笑いしたくなるのを必死で抑える。にやつくな、僕の顔。明日から、このコンビニに来れなくなるぞ。ちなみに猫が顔を洗うと雨が降ると言うけれど、タマが顔を洗っていたかどうかは把握していない。だって近づいたらまた黒い毛玉を吐き出されちゃうじゃないか。触らぬタマに祟りなしだよ。


 雨音と雷鳴をBGMに、僕は店内をうろつく。さーてと、今日のおやつは何にしようかなあ。期間限定のシュークリームも良いし、クリームたっぷりの生どら焼きも捨てがたい。お、これは夏限定か。彼女も気に入りそうだなあ。うろうろとデザートエリアをさまよったあげく、僕はシンプルなプリンの3連パックを購入した。だって、脳裏をよぎった子どもたちの笑顔。こういう予感がした時には、必ず宇座敷さんちのお子さんたちに会うんだよね。これで僕と彼女のデザートだけ買って帰るなんて、僕にはできない……。うん、バラじゃなくってリーズナブルな3連パックがあるなんて神だよ、このコンビニは。


 買い物を済ませた僕はコンビニ入り口の傘置きから傘を取ろうとして……固まった。傘、ないじゃん! え、どういうこと? そういえば僕の隣のレジで買い物をしていた中年男性、外を見上げて一瞬立ち止まっていたような。舌打ちも一瞬聞こえたような。そのあと、うろうろ周りを見たあとそのまま出て行ったのが見えて、なんだ傘持ってたのかって思ってたけど。まさかさっき、さして行ったのは僕の傘なの?!


 僕は軽く絶望する。何だよ、どうして傘を持ってコンビニまで来たのに、傘を買わないといけないんだよ。そもそも傘を持ってきていたのだから、コンビニスイーツに払うお金はあっても、ビニール傘に払うお金はない。しかもよく考えると、無駄遣いを防ぐためにお札は置いて、小銭だけでここまできたから、新品を買ってしのぐわけにもいかなかった。くそう、一体どうしてこんなことに。傘泥棒は今すぐ、タンスの角に小指をぶつけて悶絶し続けるとかの呪いにかかるべきなのでは?


 思わずおかしなことを口走りたくなった僕は、首を振る。いや、だめだだめだ。「人を呪わば穴二つ」って宇座敷さんちのお子さん達が言ってたし。こういう黒い気持ちは良くないな。「赦すことで、救われる」とかも話していたっけ。っていうかあの子達、ずいぶん難しい言葉を知ってるよね。ちょっと不穏な言葉も含んでいるのが怖いけれど、最近のアニメとかゲームではそういう言葉もちょいちょい出てくるのかもしれない。背伸びしたい年頃なのかもねえ。


 僕はコンビニのガラス窓に貼り付いて、空を見上げる。しばらく雨は止みそうにない。買い物もしてるからお店で時間を潰しても良いんだろうけれど、立ち読みとか苦手なんだよねえ。だいたいこうやって待っている間に3時のおやつの時間も終わってしまいそうだ。


 あーあ、しょうがないから家までダッシュして帰るか。せっかく買ったプリン、家に着くまでの間にプリン味のシェイクに変わっちゃうかもしれないな。ため息をつきながらコンビニのドアを開け僕は駆け出した。信号待ちの間に、少しだけ古びた商店のひさしをお借りする。青になるのを見届け、また駆け出そうとしたその時、僕はきゅっと服を引っ張られていることに気がついた。あれ、洋服を釘にでもひっかけた?


 慌てて振り返った先には、なんともレトロな格好のお子さんの姿。まあ夏だし、甚平は確かに通気性もいいから、好んで着せる親御さんもいるのかもしれない。でもクロックス全盛の時代に下駄っていうのは、なかなか珍しい。いや僕が理解できないだけで、これが今風の粋なのかもしれないけど。その子がいきなり黒い傘を突き出した。


「ん!」


「え、なに?」


「ん!!!」


 あ、思わず受け取ってしまった。って、少年、どこに行くんだ! 待ってくれ~! 脱兎の勢いで視界から消えた少年。ああ、名前も教えてくれないまま行ってしまった。まさかの見知らぬ少年とのトトロなやりとり。仕方がない、あの少年のことはカンタ(仮)と呼ぶことにしよう。


 少年よ、傘を借りてしまったのが綺麗なお姉さんとかではなくってごめんね。もしも同い年くらいの女の子だったら、ラブストーリーが始まったかもしれないのに。次にコンビニに来る時に、傘を持ってきたらちゃんと返せるかなあ。この近所にああいうお子さんがいるか、ちょっと管理人さんに聞いておこう。


 借りた傘は随分古いものでところどころ壊れていたけれど、無事にアパートまでたどり着くことができた。強風にあおられてもひっくり返ることはなく、もともとは上等なものだったらしい。とりあえず外れたつゆ先などは、ちょうど100均で買っていた傘修理セットで直しておいた。今度カンタ(仮)に会ったら、お菓子と一緒に返そうと思う。


 みんなで一緒にプリンを食べながら、雨上がりのアパートの庭で傘を干す。新種の花がたくさん咲いているみたいだ。風に揺られた傘が、なぜか笑っているように見えた。

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よろしければ、番外編もお楽しみください。
スパダリカラス天狗と天然娘の異類婚姻譚です。
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