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「僕」と「彼女」の、夏休み~おんぼろアパートの隣人妖怪たちとのよくある日常~  作者: 石河 翠


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11.「僕」とお化けひまわりのおはなし

 とある昼下がり。きんきんに冷やしたラムネをきゅぽんとあけて寛いでいたら、彼女がどこからか小さな缶を取り出した。相当古いのだろう、端が錆び付いている。


 せっかくだから、アパートの花壇に植えようよ。そう言いながら彼女が渡してきたのは、花の種。しましまじゃないし、全体的にちょっと黒っぽいけれど、たぶんこれはひまわりの種だ。一応、これなあにって聞いてみたら、彼女はにっこり笑って「お化けひまわりの種だよ」って教えくれた。


 ぶふううううっ。


 僕の口からラムネが飛び出し、きれいな弧を描く。うわあ、虹が生まれそう。もう、正直焦るよね。雪女の彼女から、「お化け」なんて名前が出ると、なんかヤバいものが出てきちゃうのかなって本気で思っちゃうよね。こっそりスマホでググったら、「お化けひまわり」という名前のジャンボひまわりがたくさんヒットして、僕はほっと胸を撫で下ろした。


 それにしても世界には色々と大きいひまわりがあるんだねえ。僕の顔やフライパン、洗面器よりもずっと大きいひまわり。木の実が大好物のりすやハムスター、小鳥なんかが見たら、狂喜乱舞するかもしれない。なになに、モンスターひまわり「ヘリアンタス サンジラ」に、世界最大のひまわりの直行品種「ヘリアンタス クレイバン ストレイン」だって。ヘリアンタス、すごいなあ。茎の太さが缶ジュース並みって、一体どういうことなの。高さは最大で7.5メートル超え! 下手をしたら、ひまわりが凶器になる事件だって起きているのかもしれない。


 しかもアメリカやイギリスでは、このお化けひまわりの大きさを競うコンテストまであるらしい。そういやあの国は、ハロウィーンの時期にお化けかぼちゃコンテストとかもやってたっけ。重量を競うとかなんだよ、大きけりゃいいってもんじゃないと思うんだけど。特にかぼちゃとかはさ、やっぱり味が大切じゃない? ……食用のジャンボひまわり「タイタン」もあるのか。どれだけ、大きく作ることにこだわりがあるのさ。


 まったく、こんなとんでもない外来種を日本で植えていいものか謎だけれど、手元に種があるのだからまあ良いとするか。とりあえず僕は、管理人さんからスコップを借りて、花壇の土をふかふかにすることにした。


 せっせ、せっせ。ここ掘れわんわんっ。いや、裏の畑で鳴いたポチもすごいけど、おじいさんもかなり強者じゃない? 全然掘り進められないんですけど。固すぎるでしょ、この土。桜の下には死体が埋まってるとか聞くけど、ひまわり畑(予定)の下には何が埋まってるっていうわけ? もしかしたら僕は土じゃなくって、コンクリートに無謀な戦いを挑んでいるんじゃないだろうか。ちなみに彼女は、外は暑いという理由で2階の部屋の中から僕を応援してくれている。なぜ?! こういうのって、カップルなら一緒に植えるんじゃないの?!


 土と必死で格闘していたら、宇座敷さんちのお子さんがやってきた。まあ確かに自分ちの前でざくざくやってたら気になるよね。どう? 一緒にやってみる? 小学校に上がったら、たぶんひまわりとか朝顔の観察をやると思うから、それの予行練習だね。あ、でも汚れてもいい格好でやろうね。こくんとうなずいたお子さんを眺めていたら、いつの間にか子どもの数がわらわら増えていた。何だか学校の先生の気分だよ。


 え、このお花? お化けひまわりって言うんだって。ねえ、変な名前だよねえ。そうそう、知ってる? 世界にはねえ、これ以外にも不思議なお花がいっぱいあるんだよ。たとえば、ラフレシアとかね。すっごく臭いんだって。トイレとか腐ったお肉の臭いがするみたいだよ。


 さすがに子ども相手に、動物の死体の臭いをさせて、虫をおびき寄せるだなんて解説できなかった僕なのに、子どもたちは嬉々として食虫植物の話を始めた。そうだよね、子どもたちって結構そういうの好きだよね。そういや、ハエトリ草とかウツボカズラって好事家に人気が高いんだっけ? みんな怪しい生き物が結構好きなんだなあ。


 僕と、宇座敷さんちの子どもたち。みんなでせっせと土いじり。いやあ、実に平和だねえ。あ、彼女が目をつぶってる。ねえ、今ちょっとうたた寝してたよね?!


 うだうだ言いつつ、がんばって作業をしたら、管理人さんがおやつに麦茶と葛切りを出してくれた。ありがとうございます! みんな、ちゃんと手を洗ってから食べるんだよ。こういうときのために、このアパートには昔ながらの井戸がつぶされずに残っているんだからね。


 本当は、春から初夏までに植えた方が良かったらしいお化けひまわり。どうなるか心配していたけれど、あっという間に双葉が出て、すくすくと大きくなっている。これならトレードマークの真っ黄色の花を咲かせるものもう少しだろう。さすが、お化けという名前に恥じない、驚異的なスピードだ。毎日お水をあげていると、なんだか愛着も湧くよね。花壇はちょうどアパートの門から近い場所にあるし、何だか門番さんを育てているみたいだよ。


 お勤めご苦労さまです! いやあ、朝からいい天気ですね。僕は今日もひまわりに話しかけつつ、ラジオ体操をしている。

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よろしければ、番外編もお楽しみください。
スパダリカラス天狗と天然娘の異類婚姻譚です。
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