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聖なる夜の来訪者②

 見たことも無い建物、嗅いだことも無い匂い、聞いたことも無い音…

 全てが初めて見る景色に感動しつつ、緊張していた。


「ここはどこの国でしょうか…崖の下にこんな大都市が広がっていたとは、こんなに豊かな国は見たことありません!それに…地下なのに空が見れるとはすごいです!」


 あくまで崖に落ち、未知の国にたどり着いたと思っているようだ…

 半分正解で、半分間違いである。

 アリアが崖から落ちた先は未知の地下国家では無く、魔法が全く発達しなかった科学の世界地球である。

 ここは、地球の様々ある国の中の一つ、日本の中の長崎県である。

 もちろん、アリアはそんなことを知る由もない。


「でも、ここは寒いですね、私の着ている衣服では凍え死んでしまいそうです…ヘクチュ、ズズ…」


 不意に鼻がむずがゆくなったのかアリアは可愛らしいクシャミをしていた。

 それもそのはずだ、アリアが住んでいた世界の季節はまだ秋に入りかけている頃だったのだから。

 ここがいくら九州の長崎と言えど、冬はどこでも寒いのだ…

 この耐えがたい寒さをどうにかするためにアリアはある行動に移そうとしていた。


「どこかに泊めていただくしかないですね。お金は無いのでどうしましょう…今から働くのは難しそうですし…そうだ!後から働いて返す、もしくはアルトリア国に戻れた時にお金をわたせばいいのではないでしょうか」


 だが、お金を払う払わない以前に大きな問題があったのだ…


「なんだ?宗教ならいいぞ、とっとと帰りやがれ!」


 声を荒げられて追い返されたり…


「なに~?私忙しいのよ~?今から彼氏と遊びに行くから~、じゃあね~」


 全く、相手にされなかったり…


「お、お嬢ちゃん…家にと、泊って行かない?ハァハァ…ハァハァ…」


 下心丸出しで危険な雰囲気を出していたり…


 そもそも、言葉が通じないのだ。

 言葉が通じなくてはアリアに敵意が無いと伝える術が無いのだ…

 色々な家を訪ねては追い返され、アリアは心身ともに傷ついていたのだ。

 目の前に明かりが着いたアパートの部屋が一つ見えたので、アリアは吸い寄せられるようにフラフラとした足取りで向かった…


「はぁ、このお家で最後にしましょうか…これ以上夜遅くに起こすのも迷惑ですし、それに言葉も通じない人に説明する自信がありません。最悪、近くにあった広場で寝ましょう」


 これで最後と心に決めたアリアはドアを軽くコンコンと叩く、すると誰かの声が聞こえ、急いで来ているのかドタドタと音が響いてきた…

 ガチャ、と独特な音を響かせながらドアが開かれた。


「はーい、どちら様です…え、女の子?もしかして限の彼女さんかしら!?早く入って、入って!」


 目の前に現れた三十代後半くらいで、アリアとほぼ同じ身長の優しそうな目をした女性が驚いた表情を浮かべていた。

 そして、アリアの腕を強引に引っ張り、部屋の中に引き入れたのだ。

 アリアは突然のことに驚いて、なすがままに部屋の中に入室した…


「いや~、限ちゃんに彼女が出来たなんてめでたいね~!でも、なんで限ちゃんはお母さんに教えてくれなかったのかな~?もしかして、恥ずかしかったのかな~?」


 アリアは限の母親に煮物などの和食をご馳走になっていた、初めて見る和食に困惑しつつもアリアは何とか食べきっていた。

 アリアは食後のお茶をを限の母親に出してもらってくつろいでいた…

 それを見ていた限の母親はニコニコと嬉しそうにほくそ笑んでいた。


「うーん…限ちゃんの彼女には勿体ないほど可愛いわね~!同じ人間なのになんでこんなに可愛いのかしらね~、やっぱり外人さんは違うのかしら~?それにしても、あなたと話すのは楽しいわ~…私が一方的に聞いてもらってるだけだけどね~、アハハ~!」


 限の母親はアリアと楽しそうに話していた。いや、一方的にマシンガンのように話しかけていただけなのだが。

 アリアも言葉は理解できなくとも、心の底から楽しそうに笑っていた。

 主な原因は限の母親から渡された缶ビールなのだが…


「やっぱり結婚式はしなきゃダメよね~…私の時は金銭的な余裕が無かったから出来なかったっけど…あなたは可愛いからちゃんとしないとダメよ~?それにしても…限ちゃん遅いわね~、彼女を放って置くなんてダメね~…やっぱりお父さんの遺伝子を受け継いでいるのかしら~?こんなこと本人の前で言ったら怒られちゃうわね~、アハハ~!」


 話を全部を聞き終わったアリアは心地よい揺れを感じていた。コクン、コクンと頭が揺られていた。

 それを見た限の母親は、アリアを抱えコタツにそっと寝かせてた。

 もちろん、アリアは自分で歩こうとしたのだが慣れていないお酒に飲まれてしまい酔っ払いになってしまったのだ…

 そして、限の母親はアリアの頭をを優しく撫でて、こう言い残した。


「限ちゃんはちょっと怖いけどいい子だから仲良くしてあげてね~…彼女だから知ってるかな~?」


 そう言い残して部屋から去ってしまった…







「おい!大丈夫か!仕方ない、救急車を呼ぶしか…」


 何やら体を揺すられている、それに誰かが慌てて叫んでいる…

 私にはその声の持ち主は分かる…

 不器用だが、優しく、心配性な男…

 私はゆっくりと目を開けて言った。


「ゲン、ダイスキ…アリガトウ」


「はぁ!?大丈夫なのか!なんだよ…寝てただけか!心配させるなよ!と言うか日本語分かってるのか本当に?」


「フフ…ワカンナイ」


「はぁー…絶対分かってるよな!?いつの間にか覚えたんだ…覚えたにしては早すぎだろ」


 洗濯をしている間にいつの間にか眠ってしまったようだ…

 そして、なぜこんなことになったのかの夢を見ていた。

 未だにあの女性にお礼が言えてない…もしかしたら会えるかもしれない、その時にはきちんとお礼をするつもりだ。

 王族としてじゃなく、一人の人間として、そして一人の女性として…


「はぁ…こんな年下にいいように弄ばれるなんて、人生何があるか分からんな全く…」


「フフ…オカエリ~!」


「言うの遅いし、洗濯機の前で寝るなんて、もしかして…やっぱりか!アリアぁぁ!洗濯物を洗ったまま放置しやがって!めっちゃ臭いぞこれ!?」


 センタクキから衣服を取り出して匂いを嗅いでは叫んでいた…

 本当にどうしたのだろうか?と不安に駆られていた。

 前々から少しおかしな行動をしていたが今日は特におかしかったのだ。


「フフ…ヘンナノ~!」


「おい、誰のせいでこんなになってるのか分かっていないのか?はぁー…こいつ引き取らなければよかったな」


 アリアが楽しそうに笑うと、限がげんなりとした表情でぼそぼそと何かを呟いていた。


「ゲン…ダイスキ~!」


 アリアが近づき、しゃがんでセンタクキから衣服を取り出している限の背後から抱き着いた。

 限はもう諦めたのか特に何の反応もせずに黙々と衣服を取り出していた。

 だが、耳が少し赤くなっていたので照れてはいたのだろうが…反応してくれないとアリアとしては面白くない。


「い、いつまでくっ付いているんだよ!いい加減離れろ!俺は女の扱いは慣れてないんだよ!」


「フフ…オモシロイ、ゲン」


「あぁー!!微妙に会話がかみ合ってるのがムカつくな…こいつ本当に日本語話せないのか?話せないフリをしてるとか無いよな?」


 日本語を理解しているのかよく分からないがなぜか弄ばれる感覚に陥いっていた…

 実際は少しは理解しているのだが、限がそれを知るわけもない。


「とりあえず…夜飯はコンビニ弁当でいいか?今日は作る気力が無い。具体的になぜ疲れてるのかと言うとだな…アリアを連れて来なかったから社長が荒れに荒れて大変だった」


「ヨクワカンナイケド…ゴメン」


 顔が一気に暗くなり、時折フフフ…と不気味な笑みを浮かべていた。

 言葉は通じなくても大変だったのは分かる…

 今にも倒れそうな表情をしていた。


「まぁ、お前が謝ることじゃないからいいぞ…主に連れて行った俺が原因だったしな~」


 明日からはちゃんと家事をし、限の助けをしようとアリアは心に誓った瞬間であった…

 この生活もいつかは終わりがやってくる。

 だからこそ、この一日、一日を大切にして生きてゆく、それが今の幸せだから…

 ヘールには悪いが再開は後になるかもしれない…


「おーい、弁当買いに行くから付いて来いよ~、勝手に選んで嫌いなものだったら困るしな」


「マッテ、ゲン~!」


 玄関で待っている限を急いで追いかける。

 しばらくはこの生活も悪くないとアリアは思い始めてきた…


アリアを空気にさせないために作った話です。

拙い文章ですが読んでくださった方ありがとうございます。

おかしい場所を見つけたら教えてくれると助かります!

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